アマミノクロウサギ
Amami Rabbit (Pentalagus furnessi)

鹿児島県・奄美大島に伝わる昔話。

ある年、毒蛇のハブが里に多く降りてきた事があった。
噛まれて死ぬ人が後を絶たなかった。

人々は怒り、奄美の島々からハブを根絶やしにしてしまおうと、
大々的な山狩りを行ってハブを皆殺しにする事に相談がまとまった。
それを聞いて、ハブを気の毒に思ったのが、里で飼われていたウサギだった。
ウサギは急いで山へ出向き、ハブの王様にこれまでの事をすっかり話して聞かせた。
ハブの王様は、奄美の島中のハブにこの事を知らせたので、
ハブ達は山狩りの前に隠れる事ができ、辛き命を助かった。

一方、修まらないのは人間達だ。
ハブ達に山狩りの事を密告したのがウサギの仕業だと知れると、
腹いせにウサギをひっ捕らえ、散々折檻した挙句、
煙燻しにして耳を削ぎ斬り、山の中に放逐してしまった。
しかし、ウサギは死ななかった。
煙で燻されて毛が真っ黒になり、耳が短くなってしまったけれど、
ちゃんと生き長らえて、多くの子孫を残した。

奄美の島に細々と生きるアマミノクロウサギ。
彼等はこの義侠心溢れたウサギの子孫だと伝えられている。
そして、ハブ達は人間よりも偉かった。
己の身も省みず、命を賭して自分達を救ったウサギの恩を決して忘れなかった。
だからハブは、普通のネズミや小鳥は襲って食べてしまうけど、
成長したアマミノクロウサギにだけは決して手を出さないと言う…。

※ハブとクロウサギの関係については後述参照

<データ>

*分類*
哺乳綱 兎目 ウサギ科
*分布*
日本(奄美大島と徳之島)の森林地帯
*大きさ*
頭胴長42〜47cm、尾長1.1〜3.5cm、体重2〜2.5s
*食性*
植物食。ノゲシやオオタニワタリ等の草本、
ネズミモチ等の樹皮、どんぐり、木の芽等を食べる。
*備考*
現存するウサギ類の中では最も原始的な種類で、国の天然記念物に指定されている。
通常のウサギに比べると耳が短く、後脚が発達せず、また上顎の臼歯が5対しかない
(普通のウサギでは6対。学名のPentalagus即ち“5本のウサギ”はこの事に由来する)。
嘗てはヨーロッパから中国にかけて広範囲に棲息していたらしき事が、
昨今相次いで出土している化石による調査から明らかにされている。
濃い黒褐色の毛皮と、ずんぐりした体型が特徴的。
夜行性で、昼間は倒木のウロや岩穴、自ら土中に掘った巣穴で休む。
住環境として水辺を好み、酷暑や寒さに敏感。嗅覚が鋭く、性質は用心深い。
島にネズミ駆除の為に持ち込まれたマングースによって多くの個体が捕食され、
また棲息地の乱開発などによって個体数は年々減少している。
※最近の観察例では、子供のクロウサギが稀にハブに捕食される事があるらしい。但し、クロウサギは子供を巣穴で産み落とし、大きくなるまで決して外に出さない為、他の動物に比べてハブによる被食率は低いようだ。また大人のクロウサギはハブが襲うには大きすぎるので、成長したクロウサギはハブに襲われにくいのかも知れない。
因みにハブ以外で怖い敵は巣穴を掘り返して子供を襲うリュウキュウイノシシと、野生化したイヌやネコ、マングースなど。