サイチョウ
Rhinoceros Hornbill (Buceros rhinoceros)

鎌のように反った大きな嘴に、これまた大きな角のような突起。
その角からの連想で「犀鳥」と名づけられた。
見るからに重そうな嘴だが、中身はスポンジ状で至って軽く出来ている。
この嘴で彼等は藪の中の木の実を簡単に摘み取ることが出来るのだ。

彼等には、傍から見て一見奇妙な習性がある。
卵を孵す時期、オスがメスを木の洞に閉じ込めてしまうのだ。
それも、嘴がわずか外に出せるくらいの隙間だけ空けて、
泥で丁寧に塗り固めると言う非常に手の込んだやり方だ。

だがこれは、卵を孕んで動きの鈍ったメスと、
これから産まれるであろう雛を捕食者から守る為、
長い進化の歴史の中で彼等が編み出した知恵である。
オスはメスを巣に閉じ込めた後、外敵をけん制して巣を守り、
ひっきりなしに餌を運んでメスと雛を養う。
ヘビ等の体の小さい捕食者も、空気穴程度の入り口では巣に入る事は出来ない。
そういった涙ぐましい努力の末、雛は大人へと成長していくのである。
古代人は、そんな彼等を「貞淑」のシンボルとして敬った。

核家族とか、亭主関白とか、恐妻天国とか、
家族のつながりが崩壊しつつある今の世の中、
私達はサイチョウに学ぶべき事が多いのではないか。
<データ>

*分類*
鳥綱 仏法僧目 サイチョウ科
*分布*
東南アジア及び近隣の島々の森林地帯
*大きさ*
全長90〜125cm、翼開長2m前後、体重3〜4s
*食性*
果実中心の雑食。特にイチジク類の果実を好む。
トカゲ等の小動物、小鳥やその卵、雛なども食べ、樹皮を剥がして穿孔性の幼虫を捕る事もある。
*備考*
巨大な嘴と、頭骸骨を覆うほど大きな骨質の突起が特徴的な大型の鳥。
山がちな土地の密林に単独またはつがいで暮らすが、
食べ物…特に果実のなる樹木が多い個所では小規模の群れを作る事もある。
あまり地上には降りず、もっぱら枝伝いに跳躍するか飛ぶかして移動する。夜は決まった場所で眠る。
飛行時に翼から発せられる轟音は、耳にして直ぐに鳥の発する羽音とは信じがたい。
上述の通り、営巣時にメスを樹洞に閉じ込め、外から泥などで塗り固めてしまう習性がある。
この習性ゆえに、雛の致死率は他の鳥に比べぐんと低い。
「グアン、グアン」と聞こえるラッパのような大きな声で鳴く。
雌雄の形態は似ているが、虹彩がオスでは赤く、メスでは黄色っぽく目の周囲に赤いアイリングがある(イラストを参照の事)。