メガネグマ
Spectacled Bear (Tremarcutos ornatus)

アンデスの山々にとうとうと横たわる雲霧林。
其処に、メガネグマは棲んでいる。
彼等は雲霧林に繁茂する様々な植物を利用して、つましく生きている。

このクマにはちょっと変わったと言うか、ロマンティックな学名がつけられている。
「トレマルクトゥス・オルナトゥス」。
“オルナトゥス”とは「飾られた」「装飾を施した」の意、
“トレマルクトゥス”とは「トレモロを唄うクマ」と言う意味である。

このクマの鳴き声は非常に表情豊かで、幾つかのパターンが確認されている。
クマとしては御馴染みな「ガオーッ」「ウォーッ」と言った吼え声を上げる事もあれば、
期限の良い時はイヌのように「フンフン」と鼻を鳴らしたりする。

最も良く上げる声が、丁度声楽家がトレモロを唄う時のような、
「ロロロロロロロロ…」と言った感じの、震えるような高音域の鳴き声だと言う。

メガネグマの鳴き声からトレモロを連想した科学者先生、
余程の音楽好きか、若しくはかなり想像力の逞しい御仁だったのだろうと思う。
18〜19世紀の科学者達は、案外新種の動物達の発見と命名を楽しんでいたのかも知れない。
<データ>

*分類*
哺乳綱 食肉目 クマ科
*分布*
ベネズエラからボリビアにかけてのアンデス山脈各地の森林地帯
*大きさ*
頭胴長1.3〜1.8m、尾長5〜7.5cm、体高70〜80cm、体重85〜140kg
*食性*
植物食の割合が高い雑食。好物はブロメリア(アナナス科の着生植物)。
サボテン、シュロやヤシの若芽、果実等の他の植物質、昆虫や死肉も食べ、ごく稀にだが家畜を襲う事もある。
*備考*
クマ類の中ではパンダに次いで起源の古い種類で、南米大陸に棲息する唯一のクマ類。アンデスグマとも呼称する。
最大の特徴は顔面を彩る眼鏡状の斑紋で、個体によってかなり形が異なり、個体識別に役立つ。
胸の部分にも所謂「月の輪」模様があり、時にはそれが顔面の斑紋と繋がる事もある。
クマとしては珍しくほぼ樹上生活者で、巣も木の上に作り、地上にはあまり降りない。
地上(主に天然の洞窟)に巣を構えるのは、妊娠したメスが子供を出産する時くらいである。
その食性と生活ぶりからあまり森林を離れる事は無いが、
時折サバンナや低地の森林地帯にも姿を見せる事がある。
毛皮と肉、皮下脂肪を狙った密猟の危機に晒されており、昨今では個体数が非常に少なくなっている。
動物園で飼育される事も少ない珍しいクマである。

※トレモロ(Tremolo)…
同音域、若しくは高低の違う2音域を急速に反復させ、
震わせるような感じで奏でる歌唱(若しくは演奏)方法を指して言う音楽用語。
語源はラテン語の「震える」「震わせる」と言った意味の語句から。