コビトカバ
Pygmy Hippopotamus (Choeropsis liberiensis)

時は20世紀初頭。
各国の動物収集家が新種の動物達の捕獲に躍起になっていた頃の事である。

アフリカはリベリアの森林に、「ニベグヴェ」と呼ばれる獰猛な動物の噂が流れた。
出合った人を必ず傷つけずにいない、鋭い牙を持った黒い動物だと言う。

この動物を捕らえようと果敢にもリベリアに出向いた動物収集家がいた。
その名をハンス・ションブルグ。
彼は同じく動物収集家であるカール・ハーゲンべックの協力の元、
辛い冒険の旅や周囲からの嘲笑など散々辛苦を舐めさせられながら、
遂にこの謎の動物を捕獲する事に成功する。
それは伝説に言うような残虐な生き物ではなく、
“ヤギくらいの大きさ”で、“家畜のようにおとなしい”カバの仲間であった。
これがコビトカバである。

元々、この動物の存在はションブルグがリベリアに赴く遥か以前に、
ヨーロッパの学会に既に発表されていたらしい。
だが、英国の博物学の権威、リチャード・オーウェンがその存在を言下に否定した為に、
ションブルグが生きたコビトカバをヨーロッパに齎すまでは、
学会では「カバの変種」くらいにしか思われていなかったのである。
彼等コビトカバが、カバ類の進化の歴史を示す重要な存在であると判明したのは、
ションブルグの冒険の旅があってこそである。

…そんな、一族の激動の歴史を知らぬ気に、
今日も柵の向こうにいるコビトカバは静かに乾草を食んでいる。
子供達の「かわいいカバさん」「ちいさなカバさん」と言った歓声を背に浴びながら…。

<データ>

*分類*
哺乳綱 偶蹄目 カバ科
*分布*
アフリカ(リベリア、シエラレオネ、ギニア、ナイジェリア)の森林地帯
*大きさ*
頭胴長1.5〜1.7m、尾長15cm前後、肩高0.7〜1m、体重160〜240s
*食性*
植物食。陸上に生える草本や果実が主食。
*備考*
原始的なカバの仲間で、カバの祖先型を保つ「遺存種(レリック)」と考えられている。
行動パターンに、カバと共通の祖先を持つイノシシの仲間に似た所
(例えば、上顎の牙と下顎の牙をこすり合わせて大きな音を立てる所など)を幾つか有する。
ほぼ親水性のカバと異なり、一日の大半を陸上で過ごす。
皮膚の感想に弱い為水辺から離れる事はないが、
水中に入るのは驚いたり警戒した場合に限られるようである。
川沿いの森に単独かつがいで暮らし、大きな群れは作らない。
野生下での暮らし振りにはまだまだ謎の多い動物である。