ムカシトカゲ
Tuatara (Sphenodon punctatus)

中国の伝説にしばしば登場する架空の存在に、
「三只眼」(さんじがん)と言うモノがある。
これは平たく言うと、額に「第三の眼」を持つ特異な人物を指して言う。
主に仙人や神仏など、聖なる存在に良く見かける特徴のようだ。

ところで、世の中には本当に「第三の眼」を持つ、
前世紀の遺存種とも言える風変わりな動物が存在する。
その名をムカシトカゲと言う。

彼等の、鱗と丈夫な皮膚に包まれた寸詰まりの頭部の頂には、
筋肉やピントを合わせる器官が無い以外は全く普通の目と変わりないモノが存在する。
これを「顱頂眼」(ろちょうがん)と言う。
第三の眼とは言うものの、普通の眼のように視覚を司るものではなく、
どのような役割があるかは不明である。

痕跡的乍ら、同様の組織(「松果体(しょうかたい)」)は大半の脊椎動物にも見られ、
特にトカゲの仲間ではこの器官で日照時間の変化を察知するのに役立つらしいが、
レンズや視神経まで供え、眼としての機能を保持しているのはムカシトカゲだけである。

嘗てはムカシトカゲでも、この「顱頂眼」が何らかの役割を担っていた時期があったのだろうか。

進化の大きな謎のひとつである。
<データ>

*分類*
爬虫綱 喙頭目 ムカシトカゲ科
*分布*
ニュージーランド(クック海峡近隣の小島)の海岸地帯
*大きさ*
全長50〜90cm、体重0.5〜1kg。オスはメスより大きい(体重で2倍近くにも達する)
*食性*
昆虫食中心の肉食。主な餌は地上性のコオロギ類。
海鳥の産卵シーズンにはその雛や卵も捕食する。餌が不足すれば共食いも辞さない。
*備考*
名前に「トカゲ」とつくがトカゲではなく、今は殆ど系統の絶えた古代爬虫類の最後の生き残り。
寒冷な環境で暮らす為に寒さに強く、通常の爬虫類なら代謝が鈍る程の低温でも活発に活動し、
飼育するには暖房より夏季の冷房が必要だとさえ言われている。
見かけは筋肉質で尾の短いイグアナいのようで、オリーヴ色の体色と背中に発達した棘が特徴。
この棘はは三角形の折り畳まれた柔らかい皮膚で形成されており、メスよりオスで顕著。
又、他の脊椎動物では外見では判別できない程度までに縮小してしまった松果体
(「顱頂眼(ろちょうがん)」…所謂「第三の眼」)が非常に発達しているのも特徴。顱頂眼の役割は未だ解明されていない。
薄暮型の夜行性で、昼間は海鳥の巣穴に潜り込んで休息する事が多い。
繁殖可能なサイズに成長するのに10数年かかり、100年以上も生きるらしい。
嘗ては島の先住民達によって食用にされていたが、現在では完全に保護されている。
進化上稀少な存在である本種を今日まで保持出来たのは、ニュージーランド特有の自然に対する思慮の賜物であり、自然保護の良き模範である。