コトドリ
Lyrebird (Menura novaehollandiae)

“世界一の物真似鳥”。
鳥類を詳しく知る人々は、コトドリの事をそう呼ぶ。

彼等の物真似のレパートリーは非常に多岐に渡る。
ホオジロガモの鳴き声、ボタンオウムの金切り声、
モズの囀り声、ミソサザイのか細い鳴き声…。
それだけではない。
フクロウ、ツグミ、ワライカワセミ…オーストラリアに存在するあらゆる鳥の声は勿論、
工場の騒音、自動車の警笛までもが物真似のレパートリーに含まれるのだ。

コトドリを何処か異国へ連れて行こうものなら、
幾日ものブランクを待たずして、即座に新天地の鳥の鳴き声を覚えて囀る。

その極めつけのエピソードを紹介しよう。

製材会社の作業員達が、ある時終業時間の遥か以前に
作業を中断して帰途につこうとした事があった。
訝った監督が問い質すと、確かに終業のベルが鳴った、と言う。
誰かの悪戯か、と大騒ぎになりかけた時、
森の奥から終業を告げるベルがけたたましく響いた…。
犯人は、ベルの音を覚えたコトドリの仕業だった、
と言う話である。

何とも恐るべき記憶力。
そして何とも恐るべき再現能力。
あやかりたい、と羨ましく感じる御仁もきっと居られる事だろう。
<データ>

*分類*
鳥綱 燕雀目 コトドリ科
*分布*
オーストラリア南東部の森林地帯
*大きさ*
全長オス90〜105cmメス50〜80p、体重900〜1150g
*食性*
昆虫食。地上性の様々な昆虫やその幼虫、ミミズやクモなども食べる。
彼らの狩りの能力を、1分辺り13〜17匹の昆虫を捕らえる計算になるとした発表がある。
*備考*
スズメ類最大の鳥で、姿形や大きさ、地上性の生活様式から嘗てはキジの仲間と考えられていた。
オスの尾羽が非常に特殊な形状に進化し、恰も竪琴のような形をしているのが名前の由来である。
繁殖期になるとオスは森の中に定めた縄張りに土を積み上げて塚を作り、
さえずり声を上げながら尾羽を振り動かして荘厳なディスプレイをする事で有名。
低木の枝や樹の切り株、岩棚の上に草や木の枝を積み重ねて精巧な巣を作り、1卵を産卵、育雛する。
通常、巣づくりから子育てまでの一連の作業は全てメスのみで行う。
生息域があまり広くない上、嘗ては美しい尾羽を目的に過剰に捕らえられ、
その為個体数が現在も稀少であるとされ、手厚い保護を受けている。