*竹薮の怪鳥*
「波山(ばざん)」は愛媛県の山中で言われる鶏の化け物で、又の名を「婆裟婆裟(ばさばさ)」若しくは「犬鳳凰(いぬほうおう)」とも言う。現地では「バサバサのお化けが来るぞ」と言えば泣く子も黙る、と言われているらしい。
普段は竹薮の奥に潜み、決して人前には姿を表さない。
夜も更けた頃こっそり住処を抜け出して、人家のある所でバサバサと羽音をさせる。何事か、と人が出てみても、其処には何もいない。…こんな悪戯をする。
但し、それ以上の悪事は働かない。
口から一種の鬼火のようなものを吐く事が出来るとも言われている。
日本では古来、鶏は「神が最も忌避する生き物」のひとつとされており、各地に鶏にまつわる奇妙な伝承が伝わっている。特に鶏と火を結びつける伝承が多く、曰く「鶏の尾羽を屋根に放り投げると火事になる」曰く「鶏が夜に鳴くと火事になる」…等々。
鹿児島県の沖永良部島では「ヒザマ」と言う、鶏の姿をした邪悪な妖怪が住んでいて、人々の家に放火して廻ると言われている。沖縄を中心に琉球諸島で見られる「シーサー」(屋根に置く獅子頭の瓦)は、元来はこうした邪悪な精霊を追い払う為の呪術だったらしい。
そうした伝承がある一方で、この「波山」のヴィジュアル的なモデルについては、江戸時代にオランダ経由で齎された南方の食火鶏(ヒクイドリ)であろうとする説もある。食火鶏は奇抜な姿をした果実食の大型の鳥だが、日本では喉元の赤いトサカから「火を食べる」と言う俗説が生まれ、珍しがられていた。「波山」が火を吹くと言う伝承は、この食火鶏の俗説と何かしらの関連がありそうだ。