オオサンショウウオ
Japanese Giant Salamander (Andrias japonicus)
オオサンショウウオの事を一名「ハンザキ」と言う。
これは「半裂き」の語に由来する名である。
今では全く考えもつかない事であるが、
昔の日本ではこの巨大な両生類を食用としていた。
捕えたものを擂粉木で殴り殺し、頭から鋭利な刃物で裂いて調理したらしいのだが、
この際、生命力の強いサンショウウオは裂かれても尚、
俎板の上で暴れて板前を困らせた。
故に人々は彼等の生命力に敬意を表し、彼等を「ハンザキ」と呼ぶようになった、と言う。
稀代の食通にして高名な陶芸家・北大路魯山人は、
オオサンショウウオ料理を賞味した数少ない近代の著名人の一人である。
彼は、自ら著述したとある本の中でこう述べている。
「私がサンショウウオを珍味と言うのは単にそれが珍しいからではない。
幾ら珍しくとも、味が良くなければ珍味とは言えない。
世の中には珍しがられても、旨くも無い代物など幾らでも在る。
ところが、サンショウウオは珍しくて尚且つ旨い。
それ故にこそ、名実共に珍味に値すると言えよう。」
勿論、オオサンショウウオが特別天然記念物に指定された今現在では、
食べる事は愚か、野外で活動しているオオサンショウウオを
捕らえたり触れたりしただけでも警察がすっ飛んでくる事請け合いなので、
まかり間違っても食べてみよう、等とは夢にも思わないように。
最も、疣だらけで非常にグロテスクな彼等を食べてみようと思う、
勇気のある御仁がいればの話だが…。
<データ>
*分類*
両生綱 有尾目 オオサンショウウオ科
*分布*
岐阜県以西の日本各地の河川
*大きさ*
全長1〜1.6m(最大で1.8m)、体重25〜40kg
*食性*
肉食性。小型の魚類、ザリガニ等の甲殻類、カエル等の小動物を食べる。
ほぼ純然たる捕食者で、少なくとも野生下では死んだ動物を食べる事は殆ど無いようだ。
*備考*
世界最大の両生類(カエルやイモリの仲間)。
嘗て19世紀のヨーロッパでは地上から絶滅した化石種と思われていたが、
1830年にドイツ人医師フィリップ・シーボルトによって生きた個体がヨーロッパに齎され、
当時の話題を集めた逸話は非常に有名。
皮膚呼吸の補助に用いられるひだと、独特の臭いを持つ分泌物を出す細かい疣が特徴。
清浄な水が流れる河川に単独で棲息し、繁殖期以外は決して群れる事は無い。
日本では1952年に特別天然記念物に指定され、厳重に保護されている。
極めて長寿な生き物で、飼育下で50年以上生きた個体の例も知られている。
性質はおとなしいが、身の危険を感じると巨大な口で噛み付いてくる。
顎の力は非常に強力で、子供の指を食い千切ったと言う話もある。
※オオサンショウウオの分類については、独自のMegalobatrachus属に含める考えもある。因みにこの属名はそのものズバリ「巨大な両棲類」の意。