オオハクチョウ
Whooper Swan (Cygnus cygnus)
「ハクチョウは美しくても猛禽である」
何かの本にそう書かれていて、非常に意外に思った事がある。
彼等の食べるものと言えば種々の雑草・雑穀とその根、
自分達が命を永らえる為に生きるものを襲って食べる事など皆無に等しい。
姿形もどちらかと言うと女性然としていて、少しも猛々しさが無い。
何をしてこの本の著者はハクチョウを猛禽と呼んだのだろうか?
何時だったかこの事について動物園の飼育係の方に話を伺った事がある。
その時聞いた答えはこうだった。
ハクチョウは縄張り意識の強い鳥である。
余程広い飼育スペースでも確保しないと、一時にひとつがい以上の個体を飼育する事が出来ない。
何となれば、彼等は夏の繁殖期の時に、自分達と生まれ来る雛の安全を確保する為、
自分達の縄張りから徹底して余所者を排除しようとするからである。
飼育下に置かれてもその習性は色濃く残っており、
複数の個体を同じ囲いに入れると必ず激しく争う。
そして、その激しい攻撃は時に同族のハクチョウ以外にも向けられる事がある。
人間とて例外ではない。
かの本を記した人はきっと何らかの原因でハクチョウの攻撃を受けた人なのではあるまいか―。
「美人、性必ずしも善ならず」とはよく言ったものである。
<データ>
*分類*
鳥綱 雁鴨目 ガンカモ科
*分布*
ユーラシア北部のツンドラ地帯で繁殖し、冬、ユーラシア温帯部(日本含む)へ大規模な渡りをする
(越冬地では主に沼沢地帯を住処にする)
*大きさ*
全長140〜150cm、翼開長2〜2.2m、体重7〜10kg。
*食性*
植物食の頻度が高めの雑食性。特に水生植物の根や若芽を好む。
*備考*
大型の水禽で、日本では冬季、北日本を中心に見られる冬鳥。
繁殖期はペアで、越冬地では家族群が幾つかまとまった大群で生活する。
家族同志の絆は非常に深いが、血の繋がらない個体に対しては割と排他的。特に繁殖期にはその傾向が強い。
その美しい姿から、昔から様々な神話で語り継がれてきた存在だが、
その一方で嘗てはその豊かな羽毛を狙われ、過剰な狩猟圧に晒され続けた哀しい歴史も持っている。
昨今、日本各地で越冬地における餌付けが成功し、年を追う毎に飛来数も少しずつ増えている。
よく通る声で「コーッ、コーッ」と鳴く。