ジャコウジカ
Musk Deer (Moschus chrysogaster)

古書に曰く、思いがけず保持した才能ゆえに命を落とす結果になる事を称して
「ジャコウジカはヘソ故に殺される」と言うそうである。

ジャコウジカはその名の通り、オスの体内に強い香気を持つ分泌腺が存在し、
生物系香料の「麝香」として高額で取り引きされる為、
保護されているにも関わらず毎年相当な数が密猟されている。

麝香について辞書にはこうある。
『オスのジャコウジカから取れる麝香腺分泌物を乾燥したもの。
紫褐色〜赤褐色を帯びた粉末で、持続性の高い特異な香気がある。
香料とする他に漢方医学で強心・鎮痙・解毒薬などに用いられる。
現在ジャコウジカの個体数激減の為、ワシントン条約による規制を受けている』

粉末にする前の麝香は「ポッド」(Pod)と呼称され、
動物由来の製品としては世界で最も高額な品物となっている。
ポッド1キログラムにつき40000ドルもの高額で取り引きされているとも聞く。
しかも恥ずべき事に、麝香の主要な消費国は我が国・日本だ。
実に年間生産量の8割が日本で消費されていると言う。

ジャコウジカの未来は日本人の手に委ねられていると言っても、
決して過言ではない。
<データ>

*分類*
哺乳綱 偶蹄目 ジャコウジカ科
*分布*
北極圏からヒマラヤ山脈にかけての東アジアの山岳地帯
*大きさ*
頭胴長0.9〜1.05m、尾長3.8〜5cm、肩高50〜70cm、体重7〜12s
*食性*
植物食。低木の芽や果実が好物。
冬はサルオガセや常緑樹の葉も食べる。
*備考*
原始的なシカの仲間。小さなヤギ位の大きさの動物で、ツノを持たず、
雪の上でカンジキの役割を果たす発達した副蹄、口からはみ出るほど長い犬歯(オスで8pにも達する)が特徴。
岩の多い山岳の森林に単独かつがいで棲息し、それぞれが広大な縄張りを構えて行動する。
性質は臆病で警戒心が強いが、同種間のオス同士では極めて排他的で、出くわせば激しい争いになる。
所謂「麝香」(じゃこう、ムスク)は1〜2歳以上のオスの腹部に生じる「麝香腺」を取り出して乾燥させたモノ。
本来は繁殖期にメスを惹き付ける為にオスがこの腺から分泌液を出す器官である。
ジャコウジカの麝香は動物性の香料としては珍しく殆ど悪臭がせず、人間の嗅覚にも心地よい為に需要が高い。
故に、高額で取り引きされるばかりで無く、技術が無ければ生きたままの麝香採取が難しい事もあって、
生息域の各地で密猟が後を絶たず、絶滅の危機に瀕している。