メコンオオナマズ
Mecong Giant Catfish (Pangasius gigas)

私が愛読している幾つかの冊子の中に、世界各地の珍品料理を取り扱った内容の本がある。
その作者が文中で、希少な動物を過度に捕殺して料理に呈する行為について、
以下の趣旨の発言を記している。

「“種”を完全に根絶やしにしたり絶滅の瀬戸際まで追い詰めるほど捕殺する行為は、
『理性を有する動物』人間の最も恥ずべき行為である。
これらの行為は如何なる理由を以ってしても容認されるべきではない。
例えその肉が珍しく旨い物だからと言って、数が激減した動物を捕らえ、食する行為は、
決して珍味の正道ではなく、邪道は愚か、最早『野蛮』の域と見捨てたい。」

この言葉を地で行く話がタイに存在する。

タイのメコン川には、全長3メートル、体重300sに及ぶ巨大なナマズが棲息している。
ナマズの類は見かけは不気味ながら味が良い事で知られ、昔から様々な国で食されてきたが、
中でもこのメコン川のナマズは格別に味が良い事から宮廷料理の食材として高価な値段で取引され、
結果、大いにその個体数を減じてしまったと言うのだ。

オオナマズの滅亡を憂慮したタイ政府は、海外の研究家の協力を得て、
昨今、オオナマズの人工繁殖事業の研究を開始した。
日本からも多くの専門家が参加した一大プロジェクトだ。

オオナマズを絶滅寸前までに追い込んだ私達人間が、後世の人間達に「野蛮」と罵られるか否かが、
この養殖事業に掛かっていると思うのは私だけだろうか。
兎にも角にも、このプロジェクトの成功を心より願うや切である。
<データ>

*分類*
硬骨魚綱 ナマズ目 パンガシウス科
*分布*
東南アジアのメコン川
*大きさ*
全長2.5〜3m、体重180〜292kg(最大で400sの記録がある)
*食性*
濾過食。水中の微細なプランクトン等を水ごと吸い込み、鰓で漉しとって食べるらしい。
この食性の為、他のナマズ類のように釣りで捕獲するのは極めて困難(捕獲には主に網を使う)。
*備考*
最大級のナマズ類。メコン川の固有種。タイでは『Pla buk』または『Pa beuk』とも呼ぶ。 
Plaとはタイ語で『魚』、Bukとは『大きい』という意味で、口語訳するとそのまま「巨大魚」という意味。
性質は用心深く、野外での観察記録に乏しい為、野生下での暮らしには謎が多く、
世界各国の研究家による熱心な調査が現在も続いている。
肉が美味な事から古くより各国の王侯貴族を中心に食され、数が激減した。
現在ではワシントン条約(CITES)の保護下に置かれており 養殖の研究も盛んである。
タイでは年に一度だけ漁が許されており、対岸のラオスと合わせて
年間20尾から30尾程度の捕獲が確認されている。
学者に拠っては1属1種の独自の属(Pangasianodon属)に分類する考えもある。