*荒ぶる稲妻の獣*
雷の落ちた場所に、時として異形の獣が姿を現す事がある。人はその異形の獣を『雷獣(らいじゅう)』と呼んだ。
目撃地によりその姿は様々だが、概ね鼬の大きくなったような姿をしており、尾が2本だったり足が6本だったり、長い嘴を持ったり水晶のような輝く爪を生やしていたりする。妖怪と言う存在は(人を食い殺すと伝承されている幾つかの種類を除くと)特定の好きな食べ物が判明している種類は割と少ないモノだが、この『雷獣』はそうした妖怪のひとつであり、どう言う訳か玉蜀黍(とうもろこし)を物凄く好む、と言われている。
また、地方に拠っては妖怪と言うよりも普通に山に棲息する獣のように伝えられている所処もある。普段は借りてきた猫のようにおとなしい獣だが、空に雷があると急に猛々しくなり、その勢いは人は勿論、この世のありとあらゆる者が手を下せない程だと言われる。その一方で、雷の無い時節を見計らってこの獣を捕らえると良い毛皮が得られるとする伝承もあり、此れを『雷狩り』と称する。この伝承から、『雷獣』は実在する獣、例えばテンやハクビシンと言った生き物を誤認したのでは無いかと言う説が生まれた。
攻撃を加えない限り『雷獣』が直接、人に危害を加える事はあまり無い。然し、この獣の放つ妖気は人間には極めて有害な作用を齎すようで、『雷獣』の放つ妖気に当てられると人は一時的な錯乱状態に陥る。どんな薬でも沈静化できない酷い物だが、玉蜀黍を粉にして服用させると嘘のようにピタリと収まると言われている。