アマゾンマナティー
Amazonian Manatee (Trichechus inungius)

嘗て大航海時代、南アメリカに上陸を果たした探検家のコロンブスは、
とある海域で「人魚」を見たと報告している。
その報告には、
「人魚と言う生き物は、我々が想像するような美しい生き物ではなかった。
その顔がかろうじて人間に少し似ていると言う程度のものだった」
と、落胆にも似たニュアンスで記されている。

この“人魚”は、恐らくマナティーだったのだろうと今では言われている。

コロンブスのこの体験から、
昨今ではマナティーやジュゴンなどの海牛類こそが人魚のモデルだ、
と言われるようになった。
この説には賛否両論あるようだ。

実は、人魚と言う空想上の生き物がそれらしきカタチで歴史に登場する…
所謂“人魚発祥の地”は、
ジュゴンやマナティーの棲息していない地域
(今の中東内陸部辺りと考えられている)であるらしい。
それを思うと、
「海牛=人魚」の巷説は若干こじつけ気味な気がする。

恐らく、人魚のイメージが先にあって、
後に世に知られるようになった海牛類にそのイメージが重ねられたのだろう。
地域によっては、海牛類を「人魚の乗騎」と伝える所処もあるそうだから、
この説の方が、やや説得力があるように思う。
<データ>

*分類*
哺乳綱 海牛目 マナティー科
*分布*
アマゾン河流域
*大きさ*
全長2〜2.5m、体重140〜360s
*食性*
植物食。岸辺の草やホテイアオイなどの浮き草を好む。
飼育下ではレタスが食餌として最適と言う。
*備考*
珍しい水棲の植物食哺乳類で、クジラに似た外見を持っているが、
分類学的にはゾウに近い仲間である。
紫がかった鼠色の体には体毛が殆どなく、分厚い外皮と皮下脂肪で形成されている。
前脚は鰭状になっており、後脚は退化、尾は団扇状に広がっている。
濁った河川に単独かつがいで棲息し、幼獣は前脚を、成獣は尾を推進力に用いてゆっくりと泳ぐ。
一度の呼吸で最高16分までの潜水が可能。
水温の変化及び水質に極めて敏感なデリケートな生き物。
肉と皮下脂肪を狙った密猟が後を絶たず、絶滅の危機にある。


※人魚については、アシカなどの海の捕食性哺乳類がその正体だとする説もあります。
詳しくはこちらも御覧下さい。(中華的熊猫)