*太陽神に仕える神秘の鴉*
「八咫鴉」(やたがらす)は、サッカーJリーグのシンボルマークとしてもお馴染みの存在である。妖怪と言うよりは精霊等、より神聖な者たちに近い存在かも知れない。
姿かたちは鴉そのもの(但し体はずっと大きい。因みに“咫”は古代日本で用いられた寸法を表す言葉で、一咫は現代の寸法で換算すると約18cm)だが、脚が3本あるので直ぐに普通の鴉と見分けられる。最も、「八咫鴉」は神意が無ければ決して地上には降りず、若し降りたとしても信心の無い愚かな人間がその姿を見ると目が潰れると言われており、普通の人間が御目にかかる機会は中々存在しないだろう。
遠い昔、神武天皇が九州・高千穂(たかちほ、今の鹿児島県にある)の地から北上して奈良まで日本を平定し乍ら旅をしていた時、日本神話の最高神であり太陽の神でもある天照大神(あまてらすおおみかみ)の命によってその行幸の先導役を務めた、と「日本書紀」は伝えている。
太陽と鴉を結びつける伝承は世界各地にあり、代表的なモノには中国の「火烏」(かう)がある。大きな鴉の姿で脚が3本と、姿かたちまで「八咫鴉」とそっくりである(と言うより、「火烏」の伝承が日本に輸入され、独自の土着信仰と結びついて「八咫鴉」が誕生したようだが)。「火烏」は太陽の中に住んでいるとも、その背に太陽を背負って天空を飛び、下界を照らすとも言われている。
また、一部の研究家は『古代、鴉を伝書鳩の代わりに飼い馴らして用いる風習があり、短い言葉を覚えさせて遠方まで知らせる“伝令鴉”や霧の深い山中を安全に歩く為の“先導鴉”として用いた。その伝承が後に「八咫鴉」として伝えられたのではないか』と言う見解を示している。鴉は鳥類一知能が高いと言われており、先に記した仮説くらいの行動は朝飯前にこなす事が可能だし、古代の人々はそうした能力を利用する事にかけては現代人など比べるべくも無い位達者だった。暴論と決め付けるのは早計であろう。
現代でも、鴉の知能の高さには目を見張らせられる事が多々ある。現代人よりもずっと素朴だった昔の人々がそうした鴉の叡智に対し、驚きと畏敬の念を持っていたであろう事は想像に難くない。「八咫鴉」はそうした昔の人々の、鴉に対する「驚き」の結晶の、ひとつのカタチかも知れない。