ヌマヨコクビガメ
Marsh Side-necked Turtle (Pelomedusa subrufa)

地域によってモノの呼び名が変わったり、馴染みの品の傾向が異なる事を指す、
「所変われば品変わる 難波のアシは伊勢のハマオギ」
と言う言葉がある。

この言葉が実にしっくりと当てはまる例がある。
世界的に見たカメ類の分布である。

カメ類は現在、首を真っ直ぐに甲羅に引っ込めるように進化した「潜頸亜目」と、
長く発達した首を横向きに曲げて甲羅の隙間に収める「曲頸亜目」の2系統がある。
前者はウミガメ類、スッポンの仲間、御馴染みのイシガメやクサガメなどの仲間を含む。
他方、後者は南半球に特有の種族で、日本ではペットショップや動物園でしか
見る事の出来ないカメ類である。
日本では、首が体に比して長い所から「ヘビクビガメ」とか「ナガクビガメ」、
またその習性から「ヨコクビガメ」と名付けられたモノが多い。
そして、これら2系統のカメ類が、野生下にて同一の地域で出会う機会は極端に少ない。

潜頸亜目のカメを見慣れた人々は、曲頸亜目のカメ類が
首を横に曲げて甲羅に収める様を見ると口をそろえて
「気味が悪い」とか「首がヘビみたいで不気味だ」とか言う傾向がある。
他方、曲頸亜目のカメを見慣れているオーストラリアや南米の人々には、
例えばイシガメやミドリガメが甲羅に真っ直ぐ首を引き込む姿を見て
「お化けじみてて気味が悪い」と言う人が多いそうだ。

生命と人間の文化・価値観の多様性が伺える話である。
…カメ達には全くどうでもよい話だろうが…。

<データ>

*分類*
爬虫綱 カメ目 ヨコクビガメ科
*分布*
アフリカ中東部とマダガスカル島の淡水域
*大きさ*
甲長25〜30p
*食性*
肉食性。小魚や甲殻類などを捕食する。
時にはカバ等の大型獣の寄生虫を取ったり、群れで水鳥やネズミを襲う事もある。
*備考*
現存するカメ類の中では極めて原始的な種類で、首を真っ直ぐ甲羅に引き込まず、横に曲げて収納するのが最大の特徴。
普段は水中で暮らしており、産卵や日光浴の時だけ陸に上がる。
旱魃などで水が干上がると、泥の中に潜って休眠する習性がある。
奇抜な姿と、割り合いおとなしい習性から、昨今ではペットとして飼われる事も多い。
現地では先住民によって捕獲され、食用に呈される一方で、
このカメの体臭がライオンの匂いに似ているので、このカメが現れると家畜が怯えて暴走する…
と言う奇妙なジンクスが信じられている。