*慈愛に満ちた百獣の長*
ビールのシンボルマークとしても御馴染みの霊獣。「貘」(ばく)同様、中国から仏教伝来と共に齎された。毛蟲(哺乳類を意味する古代中国語)360種の頂点に立つ存在で、いかなる獰猛な猛獣でもこの「麒麟」(きりん)に逆らえる者は存在しないと言われる。
慈愛に溢れた生き物で、生きた虫を踏まず、生きた草を食まず、空を飛ぶように疾走する。走る時は常にまっすぐ走り、曲がる時は機械的に直角に曲がる。
然し、追い詰められたり必要に迫られると獰猛な側面を示し、その吼える声が炎となって邪悪な者に襲い掛かると言う。
龍と鹿の合いの子のような姿(古くは狼の頭、鹿の体、牛の四肢、馬の尾)をしており、炎で出来た翼で悠々と空を飛ぶ。頭には肉の鞘で覆われた一本のツノを持ち、身体は五色の彩で光り輝いている。陰陽道の五行思想に基いた毛色の5つの種があり、厳密にはこの5種のうち黄色い毛を持ったモノが「麒麟」と呼ばれる。他に青い毛の「聳孤」(しょうこ)赤い毛の「炎駒」(えんく)白い毛の「索冥」(さくめい)黒い毛の「角端獣」(かくたんじゅう)がある。特に「角端獣」は数千里を疲れも知らず疾走する強い脚と、あらゆる人語を解する優れた知能を持っており、蒙古帝国の覇者ジンギスカン(チンギス・ハーン)の中国遠征を体を張って諌めたと言う伝説がある。
一般には、聖人君子が世に出でた時のみにその姿を現すと言われており、またその屍骸を見る事は凶事の前触れであると言う。
尚、我が国ではアフリカ産の大型草食獣“ジラフ”もキリンと呼称するが、これはキリンの姿かたちが「麒麟」を髣髴とさせる事から、キリンの実物が渡来した明治時代を境に一般化した呼称である。因みに「麒麟」の本場・中国ではキリンの事を「長頚鹿」(ちょうけいろく)と呼んで、「麒麟」とは明確に区別している。