キンギンケイ
Ruffed Pheasant Hybrid(※)
埼玉県所沢市・狭山湖に出かけて来た時の事…。
湖畔にある「山口千手観音」の境内に大きなケージを見つけた。
ニワトリと思しき鳴き声も聞こえる。
私にとって、寺社の境内にこうした環境があるのはまさしく幼子に菓子。
早速近づいて中をそっと覗いてみる。
クジャクやニワトリに混じって、見慣れない1羽のキジが止まり木に留まっている。
体型や羽毛の様子から察するに、それは幾つかの種類のキジを交配させた
人為的雑種と見て取れた。
ひと昔前…動物園や個人飼育家の間では、
物珍しさと集客能力の高さから、盛んに雑種を作って展示していた時期があった。
また、偶然の積み重ねから異種同士が愛を育み、仔を為す事も稀にあった。
例えばヒョウのオスとライオンのメスの間に生まれた「レオポン」。
オスロバとメスのシマウマの間に生まれた「ゼブロイド」。
マンドリルと言うサルと、その近縁種を交配させた「ドリマンヒヒ」…。
しかし、昨今は種の純血性を保つと言う風潮が盛んになり、
こうした雑種は作られなくなった。
所在無さ気に、その極彩色の体を持て余すキジ。
如何なる背景があって彼が生み出されたかは知らないが、
縁があってこの世に生まれてしまった者を「淘汰」の名の元に排除するのは
人間のエゴと言うものだろう。
しかし…気の毒な話だが、未来への「種」の純血性を保つ為、
命尽きるその日まで、彼はしばらく独り身を強いられる事になりそうだ。
<データ>
*分類*
鳥綱 鶉鶏目 キジ科
*分布*
飼育下でのみ存在し得る種で、野生下では存在しない
*大きさ*
全長90〜125p
*食性*
雑食。
通常はニワトリ用に調合された配合飼料で養われる。
*備考*
キジ類には幾つかの交雑例が知られているが、キンギンケイはそのうちのひとつ。
キンケイ(Golden pheasant/Chrysolophus pictus)と、
ギンケイ(Lady Amherst pheasant/Chrysolophus amherstiae)の交雑種を特にこう呼ぶ。
羽毛の程度は個体により様々だが、2種共通の特徴…
毛髪状の冠羽、兜の衿を思わせる首の飾り羽、
長い尾、そして金属的な叫び声…を持ち合わせる。
19世紀頃はヨーロッパの飼育家の間で少数が作り出されたようだが、
昨今は種の純血性が重要視されており、少なくとも故意に作成される事は殆ど無くなった為、
新たな『種』になるまでには至らなかった。
※このキンギンケイは独立した『種』では無く、言わば人為的に交配して作成された動物であり、本来は当ギャラリーに収録されざるべき存在でありますが、キンギンケイ等の所謂『雑種』と言う存在が、人間と動物の係わり合いの歴史に措いて良くも悪くも重要なひとつのエピソードになり得ると判断し、今回、特に「百獣随想」に収録しました。人間のカタルシスを満たす為だけにこのような『種』が生み出された歴史も在る、と言う事を、キンギンケイのエピソードより感じて頂ければ幸いであります。
尚、正式な学名及び該当する英語名が存在しない為、学名に関しては表記を割愛、英語名はキンケイとギンケイ2種に共通する英語名(「襟巻きを持つキジ」の意味)を用いました。予め御了承下さい。また、キンケイとギンケイに関するデータは別項を設けましたので、併せて御覧下さい。(2004、1、9 中華的熊猫)