アリゲーター・ガー
Alligator Garfish (Lepisosteus spatula)

アリゲーター・ガーは淡水魚の猛者である。

猛者と呼ぶ為の条件は人によって様々であろうが、
私はこの淡水魚の堂々とした雄々しいシルエットと、
その身体に秘められた恐るべき膂力を推したい。

ワニを思わしむる屈強な頭部。
ガノインと言う、エナメル質の一種を多量に含んだ硬質な鱗。
3mに届く程の巨体。
そして、その体から生み出されるパワーは、
彼等を釣り上げ、自慢の種にしてやろうと企む釣魚師達の釣り竿を
何本と無く破壊せしめてきたと言う。

アメリカでは、この魚を釣り上げる為に、
カジキマグロ用の頑丈なトローリング竿を持ち出す御仁もいるらしい。

そして彼等は、捕われの身になってもその凄味は少しも揺るがず、
ギラギラと輝くその硬鱗で、水槽を目の前にした多くの人々を虜にし続ける。

そんな、美しくも頼もしい彼等が好きだ。

昨今は無秩序な釣魚師による競争相手の放流により、
その暮らしが脅かされているとも聞く彼等。
遠き未来も、彼等が淡水魚の猛者たり得る環境を残してやりたいものである。
<データ>

*分類*
硬骨魚綱 レピソステウス目 ガー科 
*分布*
北米ミシシッピ川流域からメキシコ湾にかけての淡水・汽水域
*大きさ*
全長1.2〜3m 体重30〜135kg
*食性*
肉食性。小魚、カエル等の小型脊椎動物や淡水性の甲殻類を主に捕食。
大型の個体では水鳥を襲う事もある。
*備考*
古代魚の生き残りで、全身を「ガノイン鱗」と呼ばれる特殊な硬質の鱗で覆われるのが特徴。
流れの緩やかな澱みや湧水の混じる河川の表層に好んで棲息する。
ワニを思わせる逞しい吻部の形状からこの名がついた。
雨量の多い時期に浅い湖に複数の個体が集まり、
浸水した岸辺の植物や水藻にゼラチン質の卵を産み付ける。
孵化した幼魚は流木の破片や木の葉を思わせる体色を呈し、これで捕食者の目を欺く。
学者に拠っては別の属Atractosteus属に分類する説もある。
また棲息地域によって亜種を定める説もあり、
特にキューバ諸島に棲息する亜種はマンファリ(Manjuari、現地語で「無数の牙」の意)と呼称する。
原産地各所ではナマズやブラックバスなどの無秩序な放流によって激減している一方、
ペットとして輸入された個体が各国の河川に非合理に放流され、
生態系撹乱の恐れがあるとして問題視されている。