クマゲラ
Black Woodpecker (Dryocopus martius)

クマゲラにまつわる、北海道のアイヌ民族の間に伝わる昔話。

匠の神様の使っていた手袋が、何の拍子からかはらりと天の下へ落ちた。
造化の神はそれを見ると、神の用いた道具が地上で朽ちるのはあってはならぬ事…と、
その手袋に命を与え、一羽の鳥と為した。

鳥に生まれ変った神の手袋は、それ以来、
嘗ての持ち主である匠の神がそうしたように、
毎日立ち木を削って丸木舟を作るような仕草をするのである…。

実際クマゲラは、立ち木(特に虫食いが多く朽ちかけた木を好む)に鋭い嘴を立て、
恰も丸木舟を削るような勢いで木に穴をあける。
アイヌ民族の間での呼び名「チプタ・チカップ・カムイ」とはそのものズバリ、
「丸木舟を造る鳥神」と言う意味だ。

彼等が木を削り、或いは木を叩く理由。
それは餌である昆虫を得る為だったり、巣穴を開ける為だったり、
或いは春の縄張り宣言だったりする。
最近の研究で、目的に合わせて木を選んでいる事も明らかになっている。
目的に合わせ様々な木を用いると言うこの生態は、
豊かに木が育つ原生林だからこそ成り立つモノである。
まさに彼等は「原生林の申し子」と言えよう。
<データ>

*分類*
鳥綱 啄木鳥目 キツツキ科
*分布*
ユーラシア北部(日本の北海道・秋田県を含む)の森林地帯
*大きさ*
全長38〜57p、体重200〜350g
*食性*
昆虫食。樹に巣食う様々な昆虫類を食べる。中でもアリ類が大好物。
*備考*
日本で見られるキツツキ類では最大級の種類で、ほぼカラスほどの大きさになる。
全身真っ黒な羽毛に包まれ、頭頂部に赤い飾り羽がある(オスの物はメスより大きくなる)。嘴は白っぽい褐色。
夏は山地の森林で繁殖し、冬になると低地に降りて単独生活をする。
繁殖期に「キョ−ッ、キョ−ッ」と言う甲高い特徴的な鳴き声を上げる他、
枯れ木を嘴で打ち鳴らし、「ダラララ…」と豪快な連続音を発して縄張りを宣言する。
通常一度の産卵で4〜6個の卵を産み、雌雄交替で抱卵・育雛。
体が大きい割に他の種類のキツツキとの競争に弱いらしく、競合種が多く棲息する森では個体密度が低く、
逆に競合種のいない森ではかなりの個体密度になる事が知られている。