サキムニ
学名:ラゴスキウルス・ティロカウダートゥス

Sakimouni(Lagosciurus tylocaudartus)
分類*哺乳綱 齧歯目 ウサギリス科
棲息時代*近未来(今から500万〜1000万年後)
大きさ*全長60cm(ウサギ大、但し長さ20cmあまりの尾を含む)
分布域*世界各地の様々な環境(後述)

ウサギに似ているが、実は嘗て樹上で生活していたリスの子孫。
長いふさふさの尾を除けば、殆どと言っていいほどウサギそっくりに進化している。
地上では幅広の指がついた四肢で跳躍しながら移動する。
生活様式もある種のウサギに似ており、
見晴らしの良い土地に大規模なコロニーを作って暮らす。
地衣類、イネ科草本の若芽、キノコなど、
丈の低い植物や菌類を好んで食べる。
メスは一回のお産で5〜6頭の子供を出産し、
子供はコロニー内に作られた地下の巣穴で育てられる。
恐ろしく適応能力が高く、その上多産
(一回のお産が終わってから次のお産までに至る周期が非常に短い)な為
その分布域を各地に広げつつあり、
北半球のツンドラ地帯からアマゾンの大平原、
更にアジア大草原やアフリカサヴァンナ、砂漠に至るまで
様々な土地に棲んでいる。
砂漠や極地に棲息するものは、既に別種とも言えるほどに進化している。
学名の意味は「膨らむ尾を持ったウサギリス」である。
*雨がひとしきり降り、潤いを取り戻した草原。渇きの日々を耐え忍んでいたイネ科草本が一斉に芽吹き、草原は束の間緑を取り戻す。それまでひねこびた潅木の枝などを齧って凌いでいたサキムニの群れが、ここぞとばかりに青々とした若草に群がる。サキムニが草原に戻った気配を察知し、肉食動物や捕食性の鳥類がちらほらと草原の周囲に集まり始めた。雨を皮切りに始まる草原の新たなドラマ。追いつ追われつ、食いつ食われつの毎日が始まろうとしている。

*地球の様々な環境が撹乱される以前は、大型の草食動物だけでは無く勿論様々な小型草食動物…その多くは滅び、ごく一部が後に劇的進化のドラマにおける主役へとなる訳だが…が棲息していたものだった。それらの中で私達人間にありとあらゆる意味で最も馴染みの深い生き物がウサギ類である。
人類は毛皮や肉を利用する為に野生のウサギを飼い馴らして家畜と為した。時代が下るに連れ、家畜のウサギは実験動物やペットとしても我々に身近な存在になった。その一方で、無秩序な人間達に拠って世界各地に放たれたウサギが持ち前の繁殖力で個体数を増加させて土着の生態系を撹乱したり、環境破壊によって天敵が滅びた野生のウサギが林業や農業に壊滅的なダメージを与えたりした事もあった。人類時代が終息した後も、ウサギは持ち前の旺盛な繁殖力と高い適応能力を用いて各地で繁栄していた。ならば人類時代から長い年月が過ぎた今、ウサギ類から進化した新たな生き物がいたり、若しくは遺存種的なウサギ類が昔のままの繁栄を続けても決しておかしくは無いはずである。然し、決してそうならなかった。今の世界の平原や砂漠に、ウサギ類の姿は殆ど見かけられない。理由は何故だろう。
実は人類時代の少し後に、ウサギ類に対して驚異的とも言えるほど致命的なあるウイルス…粘液腫瘍病原菌が猛威を振るい、繁栄していたウサギ類を悉く駆逐してしまったのである。このウイルスは、過去人間達が各地に定着して害を齎すウサギを駆逐する為に、オーストラリアを始め各地で散布したウイルスが元である。人類時代、ウイルス散布直後に僅かな効果を齎しはしたものの、ウサギが直ぐに免疫力を身につけた為結局根絶には至らず、長い間雌伏の時期を余儀なくされた。然し、潜伏期間の内にウイルスに何らかの要因で特別な進化が齎されたらしく、それに拠って嘗てウサギが手にした免疫力を凌駕した強力な新ウイルスが、人類時代終息直後に急速に蔓延したのである。ウサギはこの新たな目に見えない恐怖に対する対応を嵩じる間も無くその殆どが死に絶えてしまい、やっと免疫力を手に入れた僅かな個体だけが、高山等の限られた環境で細々と生きるに留まった。

ウサギ類が絶滅にも近い状態に陥り、空白になった生態的地位に素早く潜り込んで進化したのは、森林の縮小に拠って地上への進出を余儀なくされた樹上性齧歯類…リスの仲間だった。リス類のある種は、樹上での素早い動きを可能にした発達した脚部や、バランサーとして機能する長い尾をそのまま地上での生活にシフトさせる事に成功し、地上に繁茂する様々な植物や菌類を糧に恐るべき速さで進化を遂げた。今、地上で嘗てウサギ類が演じた役割を果たしているのは、このリス類の子孫である…ふさふさの尾以外は全くウサギ類に酷似した新しい動物、サキムニである。
サキムニは跳躍する移動方法、ラジエータやアンテナの役割を果たす長い耳、そして顎を左右に動かして植物を噛み切る咀嚼方法に至るまで、進化のモデルともなったウサギ類に酷似した生き物である。唯一の違いは危急時に仲間に危険を知らせる為に用いる長い尾と、上顎の門歯の数(ウサギは2対、サキムニでは先祖の形質を保持して1対のまま)くらいのものである。サキムニの進化は、競争相手のウサギが斜陽の生物となった事で、非常に成功したものとなった。彼等の進化の舞台は北アメリカの砂漠地帯であるが、今では南アメリカのアマゾン大平原は言うに及ばず、厳しい気候の北極大ツンドラ地帯を経てアジア大平原やアフリカサヴァンナにまでその分布域が広がっている。
***この動物をより知る為のキーワード***
今の所処特に無し。