チンチラ
Chinchilla (Chinchilla lanigera)

とある動物園での話。

チンチラの檻の前に若いカップルが立ち止まった。
女性の方がチンチラに気がつき、男性に
「ねぇねぇ、チンチラだって〜」と声をかける。
聞くともなしに2人の会話を聞いていると、
矢張りと言うか何と言うか、話題はチンチラの毛皮の事に移って行った。

「この動物の毛皮でコート作るの?」
「一着作るのに相当な数が必要みたいだな」
「えぇぇ〜!?じゃひとりの女の子が着るコートの為に何百匹ってチンチラが殺されるの!?」
「まぁそう言う事になるよなぁ」
「嫌だぁ〜そんなの可哀想…こんなに可愛いのにぃ」
「こんな可愛い姿を見たら、毛皮なんて着る気分にはなれないよなぁ…」

そんな会話をしつつ立ち去るカップル。
そして…、それを見届けるチンチラの眼は、かすかに潤んでいるように見えた。
自分の同朋が殺される話題に悲壮感を感じたのか、
それとも、毛皮文化のバカらしさに気が付いた人間がいた事に安堵したのか。

世の男性諸君。
自分の女友達や恋人が毛皮製品をねだったら、何も言わずに動物園につれて行き、
毛皮を剥がれる前の動物達の本当の美しさを見せてあげる事をオススメします。
<データ>

*分類*
哺乳綱 齧歯目 チンチラ科
*分布*
チリからボリビアにかけてのアンデス山脈周辺
*大きさ*
頭胴長23〜26p、尾長12〜15p、耳長6cm前後、体重0.5〜0.8kg
*食性*
植物食。山岳地帯に繁茂する各種草本やその実を好む。
ごく稀に昆虫を捕食する事もあるらしい。餌は前脚で持って口に運ぶ。
*備考*
銀灰色の体毛が美しい南米特産の齧歯類で、寒冷な高山での生活に適応し、
非常に緻密で柔らかな、絹のような毛皮を有する事で有名。
岩がちな場所に雌雄のペアから100頭までの多様な群れで暮らし、薄暮型の夜行性。
群集性はあるものの割と排他的で、繁殖期のメス同士は特に攻撃的になる。
縮こまっている為判り辛いが、非常に発達した後脚を持ち、岩場を力強くジャンプしながら移動する。
寄生虫を落とす為に頻繁に砂浴びをする習性がある。
嘗てはその毛皮を狙った密猟に晒され続け、野生の個体群は絶滅寸前まで至ったが、
養殖技術が発達して毛皮の単価が下がり、また世界規模で毛皮文化が廃れた為に、昨今少しだけ回復の兆しを見せてきた。
愛らしい姿から最近ではペットとしても人気がある。