*辟邪の瑞獣*
人語を解し、古今のあらゆる知識に精通すると言われる奇獣。多くの瑞獣と同じく、中国を故郷とする妖怪である。
時代によって、また国によってその姿は様々に言われているが、一般には全身にツノと眼を無数に持った牛と獅子の合成生物であり、その顔は人面に類似すると言われている。
中国では、この妖怪が古代の伝説的為政者・黄帝(こうてい)の前に姿をあらわし、世界各地にいる一万二千種類の魑魅魍魎に関する知識を授けたと言う。この御蔭で古代の人々は妖怪を退けたり避けたり、或いは利用したりする術を身につけた、と言うのである。一説には「白澤」(はくたく)は優れた為政者が世を治める時代に、その為政者に祝福を授ける為に出現する神獣であるとも言う(とすれば、為政者の徳が薄れてしまった今の世の中には、決して「白澤」は出現しないと言う事にもなろう。嘆かわしい事であるが)。
日本に伝承されると、「白澤」の知識が万民の辟邪に役立った事から転じて魔除けの象徴とされるようになり、縁起物の護符にその姿が描かれたり、屏風絵にされたりして大いに江戸の人々の関心を集めた。
越中(富山県)では実際にこの「白澤」が出没したと言う伝承まで残されており(地元ではこの妖怪を「クタベ」と呼称したが、この名称は「白澤」からの転化と思われる)、『我が絵姿を家々に配布して張り出せば流行り病を退けるであろう』と人の言葉で予言したと伝えられている。
現在でも古い薬物商の店舗に、「白澤」を模った絵が飾られている事がある。“越中の薬売り”で有名な富山県に「白澤」が出没したのには、その辺に起因した因縁があるのかも知れない。