イワハイラックス
Rock Hyrax (Heterohyrax brucei)
一枚板の大岩で出来た巨大な丘「コプジェ」を住処にするハイラックスには、
“垂直に近い崖を苦も無く上り下りする”と言う奇妙な特技が有る。
岩山から滑落しない為の適応と思われるのだが、ハイラックスの足の裏には、
ネコのそれよりもずっと弾力に富んだ肉球が存在し、
更に多数の汗線が開いて常に湿っている。
この肉球の弾力性と汗の粘着力を用い、岩山を移動する際の滑り止めとするのである。
垂直に近い壁を攀じ登るのは、この能力の応用らしい。
嘗て、ある動物園でハイラックスを飼育した時、
ハイラックスのこの習性を知らなかったが故にとんでもない騒ぎになった事がある。
つまり、モート(壕)状のケージの周囲を垂直なコンクリート壁で覆い、
天井にあたる部分は開放された形式の檻
(ゾウや大型植物食獣のケージを想像してほしい)で飼育していた所、
ある時全ての個体が「壁登り」の忍術を駆使して脱走してしまったのである。
最も、ハイラックスは脱走の名人であると同時に、
一度住処と断じた場所には必ず戻ってくる「帰巣本能」が非常に強い生き物なので、
それ程回収には時間はかからず、事無きを得たようだが…。
それにしても、逃げ隠れたハイラックスを探し出すのは、
さぞや骨の折れる作業だったろう。
<データ>
*分類*
哺乳綱 岩狸目 ハイラックス科
*分布*
東アフリカ(南アフリカ共和国を除くほぼ全ての地域)の草原地帯
*大きさ*
頭胴長45〜53cm、体高15〜25cm、体重1800〜3700g
*食性*
植物食。木の葉や木の芽が主食。地上の草はあまり食べない。
*備考*
一見するとウサギか大きめのモルモットみたいだが、ゾウやツチブタに近縁の原始的な有蹄動物。
草原に点在する「コプジェ」と呼ばれる岩山に、雌雄混合の大きな群れで生活する。
気温の落差が激しい地域に住む為、毛皮は緻密で柔らかい。
また、岩山での移動の際滑落を防止する為に発達した肉球を持つ、背中に臭腺があって分泌物を出すなど、
いろいろと独自の性質を持った動物。
基本的に夜行性だが、天敵の少ない地域では昼間も出歩く事がある。
早朝に、体を温める為に日光浴を頻繁に行い、群れで体を寄せ合って日の光を浴びる様子はのどか。
顔に似合わぬ鋭い叫び声を上げるのも特徴。