ヌートリア
Nutria (Myocastor coypu)

ヌートリアは、戦争に振り回された歴史を持つ動物のひとつだ。

第一次世界大戦から太平洋戦争の頃に、
日本でヌートリアの養殖がブームになった事があった。
軍服の裏打ちに用いる毛皮として、
ヌートリアの毛皮に対する需要が著しく上昇したからだった。
戦争への勝利に引っ掛けて「沼狸」(しょうり)と言う日本語名まで与えられ、
一大産業として戦前の日本で隆盛を振るった。

然し、戦争が終わり、軍服の需要が無くなると、
生き残ったヌートリアは一気にその価値が下がり、
多くの毛皮業者達によって生きたまま野に放逐されてしまう。

此処でヌートリアの齧歯類としての底力がモノを言った。
彼等は見知らぬ異国の地にいち早く適応し、
子を産み、個体数を増やして、
すっかり日本の哺乳類の一員として定着してしまったのである。

そして現代。
西日本を中心に、葭原や湿地、田圃等の場所で、
彼等は今でも我が物顔に振舞い、
イネを食い、土手を破壊する害獣として忌み嫌われている。

だが、今日の彼等の日本に措ける隆盛の影に、
幾度もの戦争の存在がある事を知る人は少ない…。
<データ>

*分類*
哺乳綱 齧歯目 カプロミス科
*分布*
原産地は南アメリカの湿地帯。
ヨーロッパ、ロシア、日本など世界各地に持ち込まれた個体が野生化して定着している。
*大きさ*
頭胴長43〜65p、尾長23〜45p、体重7〜9s
*食性*
植物食。水生植物が主食。時にイネを食害する事がある。
ごく稀にザリガニや貝等の小動物を捕る事もあるらしい。
*備考*
大型の水棲齧歯類。見かけはビーバーとドブネズミの合いの子のようで、
長い尾と水かきのある後肢を持ち、水泳が巧み。
二重構造の毛皮を持ち、上毛は荒いが下毛は非常に緻密で上質。
ヌートリアの名は元来この毛皮の名称で、ラテン語でカワウソを意味する語「Lutra」に由来する。
嘗てはその良質の毛皮に対する需要が高く、飼育が容易で繁殖力が強い事から各地で養殖される一方、
南アメリカの野生の個体群は乱獲されて数が激減し、アルゼンチンでは禁猟扱いにされている。
警戒心が強く非常に臆病で、追い詰められると激しく噛み付く事がある。
顎の力は非常に強力で、ヒトの指くらいなら難なく噛み千切ってしまうので、
屋外で見かけた際は矢鱈と追いまわさず、捕獲の専門家に委ねる必要がある。
日本では「特定外来生物」に指定されており、学術目的など特定の場合を除き飼育が禁じられている。