フタツユビナマケモノ
Two-toed Sloth (Choloepus didactylus)

『ナマケモノは、頑張って怠けている』
ある動物関連のエッセイを読んだ時に見かけた、この一文に私は衝撃を受けた。

でも、考えてみればこれは至極最もな意見である。
何しろ彼等の体は、徹底的に怠けて生きる為に進化しているのだ。

長時間、御馴染みのあの逆さまにぶら下がった体勢で過ごす為に、
彼等の体はとことん特殊化している。
例えば、その爪はフック型に進化し、握力なしに木につかまる事を可能にしている。
また、彼等は余分なエネルギー生産を抑える為、非常に代謝率が低い。
腸がずば抜けて大きい為、7日間も排泄せずにいる事が出来る。
体毛は腹側から背中側に向かって生えており、
たまった夜露や雨の雫を効率よく落とすのに役立っている。
しかもその毛には特殊な苔が生え、カムフラージュに一役買っているというから
中々手が込んでいる。

動かないでじっとしていると容易く捕食者に狙われそうに思うが、
毛に生えた苔と丸まった時に恰も木の瘤のように見えるその体型のお陰で、
彼等は非常に見つけ難く、滅多な事では捕食されない。
全速力で逃げて多量のエネルギーを消費する事を辞め、『動かない事でひたすら省エネ』を選んだ動物、
それがナマケモノと言う訳だ。

海外の動物学者は、そんな彼等に「密林の賢者」と言う賛辞を与えた。
けだし至言だと思う。
<データ>

*分類*
哺乳綱 貧歯目 フタツユビナマケモノ科
*分布*
中米ホンジュラスからブラジル、パラグアイ、アルゼンチン北部の森林地帯
*大きさ*
頭胴長60〜64cm、尾は痕跡程度、体重9s前後
*食性*
植物食。木の葉や芽、果実など。種類は問わず、どんな種類の樹のモノでも食べる。
*備考*
南米特産の奇妙な樹上性哺乳類。名前からの連想通り、どうしようもないほどゆっくり動き、
脚を10p動かすのに30秒以上もかかるとさえ言われている。
地上での活動は、樹上での鈍重さに輪をかけてのろい。
しかし、意外な事に水練は巧みで、ちょうど人間の平泳ぎの按配で悠々と泳ぐ。
代謝が低い所為か驚くほど粘り強い所処があり、普通の動物なら死んでしまいそうな怪我でも間をおかず平癒するし、
水の中に30分沈めても溺死しないとも言われる。
アリクイやアルマジロと言った他の貧歯類に比べ若干性質は荒っぽく、
取り扱いに注意しないと噛まれたり、鋭い爪で酷く傷つけられる。