エジプトハゲワシ
Egyptian Vulture (Neophron percnopterus)

餌を食べる時に、石などの「小道具」を用いる動物と言われれば、
真っ先にラッコが思い浮かぶところだが、
似たような習性を持つ鳥類がアフリカにも存在する。

彼等の名はエジプトハゲワシ。

風体は聊か冴えないきらいのある鳥だが、
彼等はなかなか逞しい。

小柄で機敏な身体は上昇気流に頼らぬ力強い飛翔を可能たらしめ
(ワシタカ類は身体と翼が大きい為、上昇気流の力を借りないと長時間の継続的飛行が出来ない)、
だだっ広い草原に点在する様々な餌資源を目敏く見つけ出す事が可能だ。
同時にその機敏さは、他の鳥類のコロニーから雛鳥や屍骸を盗み出す荒業をも可能にし、
そうした腕前に対する本能的な自信は、人間の居住区でさえも生活フィールドにする柔軟性を産んだ。
最も度肝を抜かれる習性が、前述の「小道具」を使う習性だ。
彼等は、アフリカのカルシウム豊富な土壌に培われ、堅牢な卵殻を持ったダチョウの卵を、
石を用いて易々と破壊し、悠々と中身を食べるのである。
しかも、闇雲に石を選ぶのではなく、卵殻を割るのに都合の良さそうな硬質の先の尖った石を選び、
選んだ石が不適合だと、わざわざ遠くまで飛んで、
あつらえ向きの石を探し出すと言う芸の細かさだ。

こんな芸当が出来る鳥は、鳥類数千種の中でも彼等くらいのものである。

<データ>

*分類*
鳥綱 鷲鷹目 ワシタカ科
*分布*
ヨーロッパ南部からアフリカ、インド、西アジアにかけての草原地帯
*大きさ*
全長58〜72p、翼開長155〜164cm、体重1.97〜2.2s(メスの方がやや大きめ)
*食性*
肉食。小動物、昆虫、小鳥の雛、屍肉など、動物性蛋白質なら何でも選り好みせず食べる。
人間が出す生ゴミも好物。ダチョウの卵を食べる際の習性は見事。
*備考*
カラスより少し大きいくらいの小型のハゲワシ。
拓けた草原地帯や半砂漠地帯に棲息する鳥だが、餌を得られる場所なら所構わず出没し、
アフリカではヒトの居住区にも姿を現す。
黄色い皮膚が裸出する顔面、くすんだ白と黒褐色の羽毛(幼鳥では全身焦茶色)、
ハゲワシらしからぬ立派な冠羽が特徴。
冠羽は彼等が摂食する際、獲物の体腔内部にまで首を突っ込む必要が無い為の適応と見られる。
図抜けて適応力の高い鳥で、ダチョウの卵を石を使って割り、捕食する習性は有名。
岩棚に獣毛や枝を用いて巣を作り、雌雄共同で子育てをする。