ホシバナモグラ
Star-nosed Mole (Condylura cristata)
地中やそれに近しい日陰の場所を好んで住処にするモグラの類には、
常に陰湿なイメージが付き纏う。
童話「親指姫」で、主人公の親指姫と無理に添い遂げようとする
好色な狒々爺を演ずるのはモグラだった。
また、ヨーロッパを中心としたキリスト教圏では、モグラは「盲目」のメタファーとされていて、
転じて自身を甘やかし他者に厳しい視線を向ける我侭な人間を指すようになった。
但しこの陰気なイメージは、
此処に紹介するホシバナモグラには
まるで当てはまらないモノである。
彼等ホシバナモグラは、モグラとしては非常にアクティヴィティな生き物だ。
餌を求めてしばしば地上に姿を現すし、
必要とあれば泳ぐ事も巧みである。
眼は退化して殆ど役に立たないけれど、鼻面に発達した花びら状の突起が、
鋭敏な触覚器官として十分盲いた眼の代わりを務めてくれる。
嘗てのヨーロッパの聖職者が、
ホシバナモグラと出会ってたらどんなイメージを抱いただろうか…。
或いは、彼等の風変わりな鼻面にのみ関心を寄せていただろうか。
<データ>
*分類*
哺乳綱 食虫目 モグラ科
*分布*
カナダから北アメリカ(合衆国北西部)にかけての湿原
*大きさ*
頭胴長18〜20p、尾長6〜8p、体重50〜100g
*食性*
昆虫食。地上性の昆虫やその幼虫、ミミズなどが主食。
時に水中でエビや小魚、貝等の水棲動物も狩る。
*備考*
鼻面にイソギンチャクを思わせる22個の突起を持つのが特徴。
この突起は非常に神経が鋭敏で、その神経は脳に非常に効率よくリンクされていて、
水中や地中で餌を探す際、嗅覚を補う働きがあると考えられている。
ビロードのような緻密な毛、土を掘る為に発達した前脚、
地中生活に適応した円筒形のシルエットを呈する体つきが特徴。
但し、穴掘りは通常のモグラ類ほど巧みではない。
穴掘りが巧みでない事に起因するのか、
他のモグラ類ほど地中生活に依存しておらず、しばしば地上や水中で狩りをする。
湿った土地、特に沼や湖の傍に普通単独で棲息する。