ケツァール
Quetzal (Pharomachrus mocinno)

昔、この世にケツァールが生まれたばかりの頃、
彼等は全身を緑の羽毛に包まれていた。

それはスペイン軍が南米の様々な種族を武力で征服していた時の事。

アルバラードなるスペイン軍の提督が、
3万人に及ぶアステカの民を虐殺した事があった。

その時、何処からとも無く無数のケツァールが飛来し、
血塗れのアステカの民の骸の上に舞い降りて、
自らの体を呈して骸を守り、その血を清めたと言う。

以来、ケツァールの胸の羽毛は、
薄暗い密林でもそれと判るほど鮮やかな血の赤に染まったのだ、と。

美しくも哀しい物語だと思う。
<データ>

*分類*
鳥綱 絹羽鳥目 キヌバネドリ科
*分布*
メキシコ南部からパナマにかけての山岳地帯
*大きさ*
全長30〜35p(但し、オスは更に長さ60〜90cmの飾り羽を持つ)、体重35〜45g
*食性*
果実中心の雑食。リトルアヴォカド(クスノキ科樹木の果実)などの、丸呑みできるサイズの果実を好んで食べる。
他にカエルやトカゲ、カタツムリ等の小動物や昆虫も少しは食べる。
*備考*
金属光沢のある美しい緑色の羽毛を持つ珍鳥。
グアテマラの国鳥に指定されており、独立と自由のシンボルとして敬愛されている。
同国では切手や紋章などの意匠に用いられ、その名前が通貨の名称に使用される程。
高山の雲霧林に住む為詳しい生態は不明な点が多いが、
普段はつがいか小さな群れで暮らし、繁殖時は一夫一妻型のペアを組むらしい。
繁殖期(4〜5月をピークに8月まで)にオスはディスプレイ飛行を繰り返し、「ワッ、ワッ」と聞こえる大きな声で鳴く。
キツツキのように朽ちた大木に孔を穿って巣を作り、雌雄共同で子育てをする。
棲息域の乱開発や羽毛を狙った密猟の為にその個体数は激減しており、
特にヒトの手が介入しているような地域では殆どその姿が見られなくなった。