オオミミカコミスル
Cacomisle (Bassariscus astutus)
「山椒は小粒でピリリと辛い」と言い表されるように、
時にして大きな体を持つ者より、小兵な者の方が勝る局面と言う奴が、
世には数々存在するものである。
カコミスルと呼ばれるアライグマの仲間は、
大きさにしてネコくらい、黒目がちの大きな瞳を持った、
一見するとあまり獰猛そうな所処の無い動物である。
アライグマの仲間内では最も小勢で、仕草も愛らしいものだから、
ペットとして昨今日本でも人気が高い。
だが、カコミスルを侮ってはいけない。
この動物、見かけに反してなかなか獰猛な側面を持ち合わせているのだ。
彼等は、雑食性のアライグマ類の仲間内でも、最も肉食性が強いのである。
果実などの植物質も食べなくも無いが、食餌の殆どは動物質で、
ネズミ、トカゲ、昆虫は元より、時には小鳥やコウモリまで餌食にする。
愛らしい瞳は、数多の獲物に対し夜、不意打ちを食らわせる為に発達した物らしい。
耳も大きく、闇の中でかすかな物音も聞き逃さない。
…そう、彼等は可憐な姿とは裏腹に、
手練の猟犬にも引けを取らない優れたハンターなのである。
ネズミ駆除の目的で彼等を飼い馴らしていたと言うメキシコやアメリカの人達は、
その点、見かけだけで彼等を「可愛い!」と言うイマドキの人達よりずっと現実的であった。
カコミスルと言う名は先住民の人達の言葉で「小さなピュ−マ」と言う意味なのである。
<データ>
*分類*
哺乳綱 食肉目 アライグマ科
*分布*
北アメリカ南西部からメキシコにかけての砂漠地帯
*大きさ*
頭胴長30〜40p、尾長30〜40p、体重0.8〜1.1kg
*食性*
肉食の割合が強い雑食。齧歯類やコウモリ等の小哺乳類、トカゲ、小鳥やその卵、昆虫等を捕らえる。
果実等の植物質も食べるが、ごく稀。
*備考*
胴体と同じくらいの長さの、縞模様が入ったふさふさの尻尾が特徴。
その尻尾から、英語圏では一名をリングテイル・キャット(Ringtail Cat)とも言うが、
ネコではなくアライグマの仲間である。
岩や大きな石が散在する荒れ地につがいで棲息し、樹洞や岩穴、廃屋などを住処にする。
出し入れ自由の爪とバランサーとして機能する尾を武器に、岩がちの土地でも敏捷に活動する。
厳粛たる夜行性の動物で、昼間は全く外に出ない。
大きな耳から想像される通り聴力が非常に発達しており、獲物の探知も聴覚を頼りにしているようだ。
幼い内から飼育した個体はよく人に慣れ、ネズミを捕殺する能力に優れる事から、
嘗てアメリカ各地の鉱山ではミナーズ・キャット(Miner's Cat、「鉱夫のネコ」の意味)と呼び、ネズミの駆除に用いていた。