*疾風の中に潜む兇刃*
旋風の中に潜み、道行く人の虚をついて斬り付け深手を負わせる魔獣、それが「鎌鼬(かまいたち)」である。又の名を「野鎌(のがま)」とも「羊角風(ようかくふう)」とも呼称する。
地方によって「鎌鼬」の出自には諸説あるが、特に西日本では、打ち捨てられた草刈鎌が捨てられた恨みから妖怪となった、と言う説が多い。
大抵は人前に姿を見せず、突然傷を負わせる事でのみ、その存在をアピールするかの如くである。その傷跡がまるで鋭利な刃物でスッパリ斬られた様なので、「構え太刀(かまえたち)」と呼んでいた物が、何時しか訛って「鎌鼬」と呼ばれるようになった、と言う説もある。多くの場合、その傷は痛みを伴わず、ただ傷口が深く出血が酷いと言われ、通常の治療では効果が無いが、古い暦を黒焼きにして膏と混ぜ、それを塗布すると平癒すると言う。
「鎌鼬」に遭う難所と呼ばれる場所が日本のあちこちに存在したり、また『古い暦を踏みつけると「鎌鼬」の難に遭う』とする俗説もある。
一般に現代科学では、「鎌鼬」は一種の真空現象(小規模の旋風が起こった時、空中の一部に真空状態の場所が出来、運悪くそれに行き当たった人の皮膚が裂ける)に寄る物と考えられているが、この説はそれまで科学的に立証された事が無く、真偽の程は未だ不明。また記録では冬季に特に被害が多かった事から、霜焼けによる皮膚の障害がその正体だと説く識者もいる。
昔の日本では、鼬そのものがあやかしの獣と考えられていた節があり、日本全土に鼬の怪異を伝えた説話が残されてるが、「鎌鼬」はそれらの中でも最も有名な存在であろう。