シマフクロウ
Blakiston's Eagle Owl (Ketupa blakistoni)

神話や童話の世界では、何故かフクロウは森の長老的存在で、
深い知恵を持って森の動物達の相談に乗ると言った役どころが多い。
これは、ギリシアに措いてフクロウが
知恵の神・パラスアテネの使わしめと考えられていた事にも拠るのだろう。

その一方で、彼等自身が神と崇められていたフクロウ類がいる。
シマフクロウである。

北海道のアイヌの人々達は、この鳥を「カムイチカポ(神の鳥)」とか、
「コタン・コロ・カムイ(村を守る神)」と呼び、
獣や鳥の姿を借りて地上に降り立つ神々の中でも最高位の神として敬った。
何故彼等が神と崇められたか、と言うと…
答えは、その太い鳴き声(吼え声と言った方が適切かも知れない)にあった。
彼等の太く低く響く吼え声は四方の悪霊を払うと考えられ、
同時に秋の恵み・サケの到来を予告するモノであったからだ。
サケはアイヌの人々が長い冬を乗り切るのに非常に重要な食料である。
食料確保に重きを為す狩猟民族にとって、そうした報せは何より掛け替えの無いモノである。
北海道には、そうしたシマフクロウの口碑に基づく地名も幾つか存在すると言う。

然し…そのカムイが今、北海道の原野から急速に姿を消しつつある。
原因は言わずもがな、森林の伐採による生息域の減少である。
その上最近では、水産省の無計画なサケ孵化事業に拠って、
川を遡るサケが上流に行き着く事無く一網打尽にされてしまっている為、
彼等は深刻な食糧難にも悩まされている。
天然記念物にまで祭り上げられた一方で、国を挙げての保護の手立ては未だ遅々として進んではいない。
今やシマフクロウは、少数の個人活動家の血の滲むような努力によって、
細々とその命脈を繋いでいるのである。

北海道を拠点に、自然保護活動を続けられている然る著名人の残した、
こんな一言が今も私の胸を打つ。

「ヒトはシマフクロウから食料と住処を奪い、
 替わりに彼等に“天然記念物”の称号を押し付けた。」
<データ>

*分類*
鳥綱 梟鴟目 フクロウ科
*分布*
ウスリーからロシアの一部にかけての北アジア、日本(北海道)の森林地帯
*大きさ*
全長65〜71cm、翼開長1.8〜2m、体重3.5〜4.1s。メスの方がやや大きい。
*食性*
肉食。サケなどの大型淡水魚を好んで食べる。
他にウサギ等の小獣や鳥、ザリガニ等の甲殻類も。
*備考*
魚を主食とする大型のフクロウ類。日本で確認できるフクロウの中では最大級。
英語名及び学名は、幕末から明治半ばにかけて函館で貿易商の傍ら鳥の研究をしていた
イギリス出身の博物学者トマス・W・ブラキストン氏に由来する。
一夫一婦制で絆はどちらかが死ぬまで継続する。
巨木のウロに巣を作り、1〜2個の卵を産卵。メスが抱卵し、オスがその間メスに給餌する。
子供は割と成長が遅く、独立するまでに2年を要する。
日本では住環境の破壊、及びサケ孵化事業の為の集中捕獲による餌不足が原因で、
絶滅が心配されるほどに個体数が減少している(1990年初頭のデータでは推定80〜100羽)。