ゲムズボック
Gemsbok (Oryx gazella)

今から5〜6年前になるだろうか、
3日ほどの休暇を取って伊豆へ動物園巡りの旅に出た事がある。
伊豆シャボテン公園、熱川バナナワニ園、伊豆バイオパークの3つの動物園を、
限られた日数で巡り歩くハードな旅だった。

その時の、伊豆バイパークでの出来事。

かの動物園ではアフリカ産の草食動物の数々を、
広大な敷地に設えた専用の放飼ゾーンで展示している。
そのサファリゾーンの一角に、傷病動物などを収監するのに用いられる
幾つかのケージがあった。

そのケージの一角に隔離されている1頭のゲムズボック。
見た所怪我も無さそうだし、動きも頗る元気だ。

どうして彼だけが隔離されているのか気になり、
丁度餌の牧草を持って来た飼育係の人に聞いてみた所処、
意外な答えが返ってきた。

彼は生まれて直ぐに母親に死に別れ、人工飼育で育ったのだそうだ。
それ故に彼はヒトとその道具に対する警戒心が非常に薄く、
疾走する作業用ジープやサファリバスに不用意に近付きすぎるのだ、と言う。
まかり間違ったら大惨事である。
彼を事故から守る為、已む無くケージに収監する事が決まったのだそうだ。

飼育係の人は言った。
「車は事故で破損しても修理できるけど、生きた動物は事故に有ったら取り返しのつかない事になる。
 若しもコイツに何か在ったら、死んでしまったコイツの母親に申し訳が立ちません」

あれから長い年月が過ぎた。彼は元気だろうか…。
機会があったら、また近い内に彼に会いに行きたいと考えている。

<データ>

*分類*
哺乳綱 偶蹄目 ウシ科
*分布*
アフリカ(スーダン南部からエティオピアにかけて)の砂漠地帯
*大きさ*
頭胴長1.5〜2.4m、尾長40〜50cm、体高1.1〜1.2m、体重160〜210s
*食性*
植物食。イネ科の草本が主食。稀に木の葉なども食べる。
水分補給の為に、砂漠性のウリやメロンを食べる事が知られている。
*備考*
別名をオリックス(Oryx)と言う。他の有蹄類が棲めない様な過酷な砂漠に適応した大型の植物食動物。
ウマに似た体型と、長さが1.2mにもなる真っ直ぐ伸びたツノが特徴。
胴体は褐色を帯びた灰色、四肢と脇腹、顔面に特徴的な黒い斑点を持ち、
産地によって若干形状が異なる。四肢の先端は白い。
ツノは極めて質が堅く、嘗て原住民が槍の穂先に使用した。
複数のメスとその子供達からなる大きな群れに、数頭のオスが加わって生活する。薄暮型の夜行性。
群れの中には雌雄ともに順位があると見られ、しばしばツノを用いた儀式的な闘争が見られる。
厳しい環境に適応して、長時間水を飲まなくても食べた草の水分だけで賄う事が出来、
又、体温が45℃になるまで耐える事が可能な身体機能、水分節約の為に非常に濃い尿を排出する腎機能を有する。
一説には伝説上の動物『ユニコーン』のモデルとも言われている。