キングペンギン(オウサマペンギン)
King Penguin (Aptenodytes patagonica)

キングペンギンを動物園で見かける時、
どうしても気に掛かる事がひとつだけ、ある。
それは…。

餌の時間、飼育係さんが
一羽づつ嘴に手ずからアジを咥えさせる所処が多いのである。
他のペンギン達はプールに投げ入れられたアジを、
野生で暮らす仲間達と同じように自らの嘴で咥え取って食べていると言うのに。

絶食に対する強制給餌と言う訳ではない。
現に、アジを目の前に差し出されると自ら嘴で咥え取るのである。
餌の巡りが遅いと嘴で飼育係さんを突付いて催促する個体もいる。

しかし、足元とかにアジがポロリと落ちると、もうその餌には
興味を示さなくなる。
おこぼれを狙っているカモメやゴイサギが掻っ攫ってしまっても知らん顔だ。

気になって、これまで幾つかのペンギンの文献を調べているのだが、
納得できる答えはまだ見つけていない。

ただ、小型のペンギン類は比較的浅い(とは言え、かなりの水深である)海域で
餌を取るのに対し、
キングペンギンは海底に近い位の深い海域まで潜り、
イカや深海性のタラなどを捕食する事は判明している。

確たる答えはまだ導き出せないが…この辺に何か秘密が在りそうだ。
折を見て今後調べてみたい謎である。
<データ>

*分類*
鳥綱 ペンギン目 ペンギン科
*分布*
亜南極圏(北緯50度付近)の島々
*大きさ*
全長85〜95cm、体重30kg以上
*食性*
魚食性。深海性のタラや頭足類、オキアミ等が主食。
*備考*
最大級の近縁種(エンペラーペンギン)には及ばないが、それでもペンギン類では2番目に大きい。
骨が硬化して「鰭」と化した翼と、独特の直立姿勢が最大の特徴。
飛ぶ事は出来ないが、水中での動きは地上での鈍重さからは考えられないほど優美。
腹部の皮膚がだぶついて袋状になっており、
抱卵(巣を作らず、一回のお産で一卵を両足の上に乗せて直立したまま抱卵する)や育雛時、
卵や雛を寒さや外敵から保護するのに用いる。
抱卵時は縄張りも持たず餌も摂らず、蓄積した皮下脂肪だけを頼みに数ヶ月もの間絶食する。
嘗てはその大きな体から取れる油を目当てに乱獲されたが、現在は保護されている。

※このページをアップして後、機会があって上野動物園のペンギンの飼育係さんにこの件でお話を伺う事が出来た。飼育係さんの話によると、キングペンギンに手渡しで餌を与えるのは「傷病の治療を始めとしたペンギンと人間の接触の際に、出来るだけペンギンが人間を恐れて暴れる事が無いようにする為のある程度の馴化」が目的なのだそうである。落とした餌を認識しない事については「ハッキリとした要因は不明」との事。いずれにせよ、野生での習性とはあまり関連がなさそうである。因みに、ペンギンの野性味を損ねないような飼育を心掛ける動物園では、キングペンギンはプールに投げ入れられた餌を、他種のペンギンと同じように自ら嘴で咥え取るようになると言う。
尚、馴化と言っても、動物園の動物を『ペット化』するような水準のモノでは無いと言う事を追記したい。