ドゥクモンキー
Douc Monkey (Pygathrix nemaus)

世に言う「ベトナム戦争」が勃発したのは、
確か私がまだ小学生になるかならないか位の出来事だったかと思う。

この場で戦争勃発の背景やその是非を論ずるつもりはないので、
此処ではそう言った話は省かせて頂くが、
この戦争について、動物好きの見地から一言だけ言わせて頂ければ、
「枯葉剤」と呼称される化学兵器の使用は、
人間だけではなくインドシナ半島の自然や動物にとっても非常に恐ろしいものだったと言う事である。

此処に紹介するドゥクモンキーは、
そのベトナム戦争が一因となって個体数が激減した動物のひとつである。
枯葉剤による環境破壊で餌の木の葉や果実が多く失われ、
更に軍人達の食料や射撃の標的として多数が捕殺されたと聞く。
戦争が終結した時には、彼等は絶滅したとさえ言われていた。

そのドゥクモンキーが、戦火を逃れた狭い範囲の森に少数生きていたと言うニュースが流れた時、
研究者は驚きと喜びを隠せなかったと言う。

今、棲息地の森の保全と共に、世界規模でドゥクモンキーの保護運動が展開されている。
心よりその保護運動が成功する事を祈らずにはいられない。
<データ>

*分類*
哺乳綱 霊長目 オナガザル科
*分布*
インドシナ半島の森林地帯
*大きさ*
頭胴長61〜76cm、尾長56〜76p、体重12〜14kg
*食性*
植物食。若葉や枝、果実が主食。
繊維質に富む食資源に適応し、ある種の偶蹄類のように3つにくびれた発達した胃袋を持つ。
*備考*
野生での生態が殆ど知られていない珍しいサルの仲間で、所謂「リーフ・イーター」(葉食性サル類)と呼称される樹上性霊長類のひとつ。
つり上がった目付きと、印象的な独特の体色が特徴。
特に体色はかなり変異に富み、学者に拠っては
インドシナ北部の個体群(脛の毛が赤みを帯びた褐色)と南部の個体群(脛の毛が黒褐色)を
それぞれ別の種として分類する場合もある。
地上へは滅多な事で降りず、殆ど木の上で暮らす。
棲息地の多くが戦禍によって破壊された事もあり、個体数は極めて少ない。
日本を含む各国の動物園で、飼育下における個体数増加の研究が為されている。