レイサンガモ
Laysan Duck (Anas laysanensis)

レイサン島は、ハワイ群島の一角を為す小さな島である。

島と言う環境は、大陸に比べ独自の自然を保持している事が多く、
そうした自然に育まれた命も、勢い大陸のそれとは異なる進化を遂げたものが多い。
レイサンガモはそうした典型的な島の生命のひとつである。

嘗て、競争相手も天敵も殆ど存在しなかったレイサン島。
その島での暮らしで、彼等レイサンガモは飛ぶ事を捨て、
島に豊富にある草を食べてつましく暮らしていた。

平和な彼等の日常は、島に人間が渡ってきた事で一変する。
人間はカモの生息域を破壊し、残った僅かな自然にウサギを持ち込んだ。
ウサギは爆発的に増え、若草を主食につましく生きてきたカモ達を、
食糧難と住居難と言う二つの責め苦で追い詰めた。
主食だった若草を奪われたカモ達は、然し、絶滅する前に最後の足掻きを示した。

塩水湖の周辺に群れるミギワバエを餌に選んだのである。

一度、海外の自然ドキュメントでその光景を見た事がある。
長くも無い足をよちよちと動かして塩水湖の縁をせわしなく駆け回り、
嘴を不器用に操ってハエを捕らえるカモ達。

彼等のしぶとさ、したたかさに感動を覚え、
同時にそのいじましい姿に、憐憫の情を禁じえなかった。
<データ>

*分類*
鳥綱 雁鴨目 ガンカモ科
*分布*
ハワイ諸島・レイサン島の塩水湖周辺
*大きさ*
全長40〜48cm、体重400〜600g
*食性*
雑食。陸上の草や水草の葉、根、茎などの植物質、貝類、水中の微生物や昆虫などを食べる。
外来生物により陸上の餌を奪われ、ミギワバエなどの昆虫を食べる行動を示した逸話は有名。
*備考*
島嶼と言う環境に適応したカモの一種。
嘗てはハワイ諸島各地に棲息していたが、外来生物の影響で各地で絶滅。
現在は諸島北西部のレイサン島だけに、300〜500羽がかろうじて残存するに過ぎない。
海岸や、島の中心にある塩水湖の周辺に通常単独かつがいで暮らす。
体は褐色、頭部は緑がかった黒で、目の周りの白い模様が特徴。
雌雄同じ色だが嘴の色だけが異なり、オスでは緑がかった灰色、メスでは黄色味を帯びる。
薄暮型の夜行性だが、時に昼間行動する事もある。
餌不足を補う為に、ミギワバエの大群の中を口を開けたまま走り回り、それを食べる生態が報告され、有名になった。
外来生物による圧迫と温暖化に拠る島の沈没危機から、絶滅が懸念されている。