ハッカン
Silver Pheasant (Lophura nycthemera)

ハッカン、と聞くと耳慣れない名前だが、要はキジの仲間である。
濃い紺色と白のコントラストが美しい、至極見事な姿のキジだ。
英語圏では「銀色のキジ」と言う呼び名で親しまれている。

飼い鳥の事を詳しく編纂した昔の図鑑に曰く、
「ハッカンは非常に猛々しい鳥で、禽舎内で人に向かってくる事など珍しくなく、
発情期には猛り狂って同居するメスを殺してしまう事がある」
とある。
だがこれは、前世代的な狭い禽舎内で飼われた末の病的な反応らしい。

以前、都内某所の子供動物園に出かけた時、
卵を抱きかかえ身じろぎもしないメスのハッカンと、
それを守るようにケージの目の前に仁王立ちするオスのハッカンを見た。
客がメスを見ようと身を乗り出すと、その動きに合わせて
オスは客の前に立ちはだかり、大きな尾羽を広げてメスを覆い隠そうとする。
明らかに彼は自分の連れ合いを客の視線から守っていた。

元来、キジ類のオスは子育てにあまり関与しない、と言われてはいる。
しかし、こんな意見もある。
「キジ類のオスが豪奢な姿をしているのは、繁殖期に多くのメスを惹きつけるのみならず、
メスが子育てする時節、目立つ姿で捕食者の視線を自分に向けて
子供とメスを守ろうとする習性があるからだ」

真偽の程は定かではないが、しかし前述のハッカンのエピソードはまさしくその説に当てはまる。

動物の行動とは図鑑の説明だけで推し量れるものでない事を、
ハッカンは身を以って私に教えてくれたような気がする。
<データ>

*分類*
鳥綱 鶉鶏目 キジ科
*分布*
中国南部からインドシナ、ミャンマー北部にかけての山岳地帯
*大きさ*
全長オス90〜125cm、メス55〜70cm  体重オス0.9〜1.5s、メス0.7〜1s
*食性*
雑食。イネ科の草本やその実、様々な花、昆虫や無脊椎動物各種など、
そのメニューは非常に多彩。
*備考*
アジアの広い地域に棲息する美麗な地上性の鳥。
標高2700m前後の山地の森や竹薮に暮らしている。
オスの羽色が、白と黒味がかった紺色を呈するのが特徴。
対して、メスは尾羽が短く全体的に褐色がかった羽色をしている。
地域によって若干羽色の濃淡に差があり、14もの亜種に細別される。
この内、中国南部からベトナムに分布する亜種が最も大きく、且つ最も白味が強い。
因みに飼育観賞用に出回っている個体は殆どがこの大型の亜種である。
キジ類の例に漏れず、この鳥も一夫多妻の習性を持ち、強いオスほど多くのメスを従える。
鋭い笛のような鳴き声をあげる。
一部の愛鳥家の間では飼い鳥として非常に人気。動物園でもしばしば飼育される。