ワニガメ
Alligator Snapper (Macroclemys temminckii)

ワニガメは、カメ類きっての釣魚師である。

耳元まで裂けた大きなワニガメの口の中には、
舌の肉が変化したミミズのような突起がある。

空腹を感じると、ワニガメは水中でじっと動かず、口だけを70度もの角度で開いて、
舌先の「ルアー」をいかにもそれらしくひらひらと動かす。

魚の視線からは、
ゴツゴツした岩の傍でミミズがのたうってるようにしか見えない。
誘惑に抗いきれずに魚がそれを啄ばもうと傍に寄るが早いか、
ワニガメは開きっぱなしの口を素早く閉じ、
鋭い嘴と顎で魚に冷酷な一撃を加えてあっと言う間に飲み下してしまうのである。

研究結果によると、若年個体ほどルアーの色が鮮やかで、
こうした「待ち伏せ」式の狩りを多用する傾向があるそうだ。
その事から、ワニガメの「釣り」は、
若年個体のスキル不足を補う為に発達したものと考える研究者もいる。


この辺、老いれば老いる程釣りを極めんとする、人間の世界とは対照的で面白い。

…生きる為の狩猟行為と、レジャーの為の狩猟行為の差と言うモノだろう。
<データ>

*分類*
爬虫綱 カメ目 カミツキガメ科
*分布*
北アメリカ南東部の湖沼、流れの緩やかな河川
*大きさ*
甲長60〜78cm、体重70〜115s
*食性*
肉食。淡水性の魚や貝、甲殻類が主食。時には他種の小型カメさえも捕食する。
魚を捕らえる時の習性は非常に興味深い(前述のコラム参照の事)。
*備考*
アメリカ大陸最大の淡水性カメ類。
現存するカメの中では最も原始的な種類で、甲羅の構造などに遺存的形質が見られる。
ゴツゴツした甲羅と体の割に大きな頭、鱗状の突起に覆われた長い尻尾が特徴。
産卵の時以外に水中を離れる事は殆ど無く、普段は水底を這うようにゆっくりと移動している。通常は単独生活。
顎の力は極めて強く、貝殻や他種のカメの甲羅を易々と噛み砕く事が出来る。
肉を食用にする為、またはペットとして飼う為の乱獲が原因で個体数は減っている。
日本では土着の生態系への配慮から、原則として個人での飼育は厳しく制限されているが、
不法投棄による野性化が各地で確認されており、その対処が問題視されている。
怪獣映画「ガメラ」のモデルとしても有名。