ボンゴ
Bongo (Tragelaphus euryceros)

今から10年近く前の話になるが、故郷・北海道は函館にひとりで旅行に行った時の事。

函館の郊外にある「大沼国定公園」の近くに、当時大きな私設動物園があった。
根っからの動物好きの私の意向を汲み、友人が連れて行ってくれた。
狙いの動物は…当時は飼育例が極めて少なかった珍しいウシ科動物・ボンゴ。

その動物園にボンゴが来園したのは私が高校生の頃。
そして、私が高校を卒業し、関東に移住してから数年立つ。
彼は生きているだろうか。

淡い期待は入り口の所処で空しく破られた。

入り口のロビーにすっくと立つ一体の剥製。
紛れもなくそれはボンゴの剥製だったのだ。

北海道の南端に位置するとは言え冬の気温が非常に低く、
夏もそれほど気温が高くならない地域の動物園である。
熱帯雨林に棲息するボンゴにとっては堪えがたい気候だったに違いない。

北の国の動物園で、仲間と出会う事無く孤独なまま死んだボンゴ。
彼の今わの際の思いは如何なるものであったか…。
剥製のブルーの瞳が寂しげであった。

…その動物園も、不景気のあおりを食らって今は閉園して久しい。
あの時の、ボンゴの死を悼む私としては、
生き残った動物達が各地の動物園に引き取られ、
今も存命していると言う事実だけがせめてもの救いである。
<データ>

*分類*
哺乳綱 偶蹄目 ウシ科
*分布*
アフリカ中部(シエラレオネからウガンダにかけて)の森林地帯
*大きさ*
頭胴長2.2〜2.35m、尾長24〜26cm、肩高1.3〜1.4m、体重220〜300s
*食性*
植物食。木の葉が主食。特に数種のハーブ類を好み、其処から現地では
「狩られるのを防ぐ為毒草を食べて肉に毒を蓄積する」の寓話が生まれた。
*備考*
優美な姿をした森林性のウシの仲間。「密林の貴公子」「魔女の生まれ変り」等様々な渾名を持つ。
深い森林にオスは単独で、メスは最高20頭前後の群れで暮らしている。
栗色の美しい被毛を有し、オスはやや濃く、年と共に黒味がかる。
また、胴体に11〜13本の白い縞模様を持ち、カムフラージュに一役買っている。
ツノは雌雄両方で有し、長さ60〜90cm、時には1mを越し、褐色で先端が黄色っぽい。
早朝に採食し、日中は休んでいる事が多い。
ジャンプ力に優れ、自分の背丈より高い壁なども難なく飛び越える事が出来る。
密林で暮す故か、走る時は頸を反らしツノを背中につけて、ツノが障害物に引っかからないようにする。
習性に色々謎が多い動物だが、昨今動物園での飼育数も少しずつ増えている。