ラーテル
Ratel (Mellivora capensis)

「共利共生」(きょうりきょうせい)と言う言葉がある。
全く異なる数種の生き物が、相互に関係しあう事により利益を得、
生存競争を有利に生き残ろうとする戦略である。

アフリカからインドにかけて住む大型のイタチ類・ラーテルと、
ミツオシエと呼ばれる小鳥の共生はその最たる例と言える。

ミツオシエもラーテルも、蜂蜜やハチの幼虫が大好物だ。
森の中を巡回していたミツオシエが、何処かで大きなハチの巣を見つけたとする。

非力なミツオシエは、自らの力だけではハチの巣を暴く事は出来ない。
そこで、ミツオシエは大きな声で鳴き交わし、近くにいるラーテルを誘い出す。
ラーテルも心得たもので、この鳥が騒々しく鳴き始めた時には、
近くに獲物が存在する事を肌で理解しているらしい。
襲い掛かるでもなく黙ってミツオシエの後をついて行く。

やがてハチの巣の前までやって来たラーテルは、
自慢の爪と牙にモノを言わせてあっという間にハチの巣を破壊し、
蜂蜜を舐め、ハチの子を貪り、悠々と去って行く。

ラーテルが去った後、破壊されたハチの巣の残骸にミツオシエが降り立ち、
残されたハチの子や蜜蝋を啄ばむ、と言う按配だ。

子供の頃に海外の図鑑を読んでこの事を知り、凄く心が暖かくなった事を今でも覚えている。

血で血を洗う争うだけが野性の世界だけじゃない事を、
ラーテルとミツオシエは教えてくれたのだ…と思っている。
<データ>

*分類*
哺乳綱 食肉目 イタチ科
*分布*
サハラ砂漠以南のアフリカ大陸と、インドから中東にかけての砂漠地帯
*大きさ*
頭胴長60〜77cm、体高25〜30cm、尾長20〜30p、体重8〜10kg
*食性*
雑食。昆虫や小動物、果実等を食べる。中でも蜂蜜とハチの幼虫に目が無い。
時にはヘビや、自分と同じ大きさのヤマアラシを殺して食べる事もある。
*備考*
中型犬ほどの大きさのイタチの仲間で、獰猛な性質を持った地上性の雑食動物。
蜂蜜を好む性質から、一名を「ミツアナグマ」(Honey Badger)とも言う。
背中が白っぽい灰色、腹面が黒で、染め分けの境に白い縞模様がある。
だぶだぶで非常に頑丈な皮膚、恐ろしく強い顎、鋭く発達した爪が特徴。
通常単独で生活し、概ね夜行性だが、人間の活動が及ばない地域では昼間でも行動する。
気性の荒さは動物の中でも指折りで、時には縄張りを防衛する目的で、
自分より数倍も大きなウシやウマを攻撃する事もある。
怒らせたり追い詰めたりすると肛門の脇にある臭腺から悪臭を飛ばし、耳障りな唸り声を発したり、
死んだ振りをしてみせて相手の虚をついて逃げたり、なかなかしたたかな側面を持つ。