ツメバケイ
Hoazin (Opisthocomus hoazin)

鳥類は爬虫類の一派である恐竜類の一種から進化した―。
賛否両論、科学的証拠の乱立など多数の問題を含むものの、
凡その学者達にこの説は受け入れられるようになった。

さて、鳥類の起源を研究するにあたり、
一時期科学者達の間で随分注目を集めた鳥がいる。
その名をツメバケイ(爪羽鶏)と言う。

この鳥は鳥類らしからぬ様々な変わった特徴を持ち合わせた、
まさしく「珍鳥」の名に相応しき鳥なのであるが、
一番風変わりな特徴と言うのが、
雛の翼に鋭い爪が生えた「指」が備わっており、
これと、発達した後脚を用いて樹上をぎこちなく移動すると言う習性である。

折しも、ツメバケイが西欧諸国に知られるようになったのは、
「化石鳥」アルケオプテリクス(始祖鳥)の化石が
学者間で物議を醸していたまさにその直中だった。
学者達の眼が狂喜に輝いたのは容易に想像できる所である。
翼に爪を持つ、まさに始祖鳥に生き写しの生き物が見つかったのだから。

だが後に、ツメバケイの雛の爪は、
樹上生活に適応したが故の二次的な進化である事が判明した。
今ではツメバケイの爪が、始祖鳥のそれと関連があると考える学者はいない。

最も、鳥類の進化の歴史に関連が薄い事項だったとしても、
ツメバケイの様々な変わった特徴が、
魅力的なモノである事に寸分も変わりは無いと思う。
<データ>

*分類*
鳥綱 爪羽鶏目 ツメバケイ科(後述参照)
*分布*
南米(アマゾン川とオリノコ川の各流域)の森林地帯
*大きさ*
全長60〜70cm、体重700〜800g
*食性*
植物食(葉食)。樹木の葉だけを常食にすると言う、鳥類では極めて異例な食性の持ち主。
特にアルム(ムッカムッカ)と呼ばれるサトイモ科の樹木や、ヒルギダマシの若葉や芽を好む。
*備考*
一目一科一属の非常に珍しい鳥類。
大きな翼とぼさぼさした羽毛、目立つ冠羽、太く頑丈な嘴と脚を持つ。
樹木の葉を食べると言う珍しい食性に適応し、非常によく発達した消化器官を有し、
特に食べたモノを一時的に蓄える「そ嚢」と言う器官が全内臓の3分の1を占めるほど大きいのが特徴。
この発達した内臓が鎖骨や翼を動かす筋肉を圧迫している為、
翼が大きい割に飛翔能力が弱く、滑空程度の御粗末な飛翔しか出来ない。
植物食の鳥類としては珍しく、ウシの糞に似た強い体臭を持つのも特徴的。これは外敵に対する防御になるようだ。
生まれたての雛には翼に2本の「爪」があり、外敵が来ると巣から飛び出して爪と脚を用いて枝を渡り、
或いは眼下の水中に飛び込んで翼を使って泳ぎ、敵から逃れる。
この爪は成長すると抜け落ちてしまうらしい。
尚、この鳥の分類に関しては、外見や卵アルブミンの免疫特性を分析した結果からキジの仲間にされたり、
雛の身体的特徴や卵蛋白質の解析からカッコウの仲間に分類されたりするが、
当サイトでは最近の傾向に従い独立した目の鳥類とした。