ヒヨケザル
Colugo (Cynocephalus variegatus)
ヒヨケザル、と聞くと耳慣れない名称かも知れない。
事実、現在の日本におけるヒヨケザルの知名度はかなり低いと言って良い。
然し、江戸時代後期の日本では、
ヒヨケザルは今よりずっと名が知れ渡っていた。
…但し、唐土(もろこし)の地の怪しい獣の名として。
嘗て、ヒヨケザルは「風狸」(ふうり)又は「風生獣」(ふうせいじゅう)と呼ばれ、
風と共に飛翔するあやかしの獣、と考えられていた。
彼等は常に「風狸杖」(ふうりじょう)と呼ばれる特殊な草を携帯しており、
獲物の小鳥に目掛けてそれを投げつけて殺す…とか、
殺しても鼻腔に風が吹き込むと即座に息を吹き返す…とか、
更には「風狸」の脳味噌を食べると寿命が500年も延びるとか、
様々な俗説が伝えられている。
いずれも、ヒヨケザルの奇妙な姿が生み出した荒唐無稽な俗説であるが、
ヒヨケザルに対する昔の人々の関心の高さが伺える話である。
尚、ヒヨケザルの脳味噌を食べたからと言って、
実際に寿命が延びる訳はないので、念の為。
<データ>
*分類*
哺乳綱 皮翼目 ヒヨケザル科
*分布*
東南アジアの森林地帯
*大きさ*
頭胴長33〜45cm、尾長22〜27cm、翼開長65〜75cm、体重1〜1.75kg
*食性*
植物食。果実、花、芽、若葉等、主に植物体の柔らかい部分を食べる。
この食性の為、ココヤシ農園ではしばしばヒヨケザルを害獣として忌避する。
*備考*
サルと名がつくが厳密には霊長類では無く、共通の祖先から早い過程で独自の進化を遂げた動物。
嘗てはコウモリの祖先に近い動物だともされ、胎児の状態では極めて近い形質を保持すると言われる。
海岸沿いの低地から標高100m前後の山地までを棲息区域とし、
ある程度の社会性を保持した暮らしを送っていると考えられている。
外見はムササビやモモンガのような滑空する哺乳類に類似しており、
イヌのように突き出た吻と大きく発達した眼、尾部の末端まで発達した皮膜が特徴的。
地衣類のような駁模様がある、短く艶のある毛皮を持つ。
個体差は在るものの、概ねオスは褐色がかり、メスはやや灰色っぽい。
滑空能力はムササビやモモンガより遥かに高く、
高度を下げぬまま水平に100mも飛び続ける事が可能。
夜行性で、昼間は手頃な太さの木の幹に四肢を使ってしっかりとしがみ付いて暮らしている。