フィリピンワシ
Philippine Eagle (Pithecophaga jefferyi)

嘗てのフィリピンの最高権力者・故マルコス大統領は、
大の狩猟好きで有名であった。
自分が購入した土地に、自分とその関係者がゲーム・ハントを愉しむ為だけに、
シマウマやキリンなどの動物を半ば野生の状態で飼育していたほどである。
その“狩猟用庭園”には、東南アジア特産の希少なシカ類なども放され、
飼育下での繁殖研究が為されていたらしい。
こうした傾向は中世ヨーロッパの王侯貴族を思わせ、
なかなか興味深い。

さて、このマルコス大統領にゆかりの深い鳥がいる。
その名をフィリピンワシと言う。

この猛禽類、嘗てはその習性から
「Monkey-eating Eagle」(サル喰いワシ)と呼ばれていた。
猛々しい響きだが聊か鳥類の王者には似つかわしくない名前ではある。

マルコス大統領はこの名前が気に入らなかったらしい。彼は機会がある毎に
「この猛禽はフィリピンを代表する猛禽なのだから、サル喰いワシだなんて下品な名前は廃し、
フィリピンワシと呼ぶべきだ」と強く呼びかけていたと言う。
その呼びかけが功を奏したのかは知らないが、
昨今では「サル喰いワシ」の名称はあまり使われなくなったようだ。

それほどフィリピンワシを溺愛していたマルコス大統領も、後にその独裁振りを糾弾されて失脚。
今は亡くなってしまって久しい。
そして皮肉な事に、最大の庇護者が失われた今、
フィリピンワシの命脈も、年を追う毎に衰退の一途を辿っている。

恰も、かの最高権力者の後を追うように…。

<データ>

*分類*
鳥綱 鷲鷹目 ワシタカ科
*分布*
フィリピン諸島の森林地帯
*大きさ*
全長86〜108p、翼開長2〜2.2m、体重4〜8s
*食性*
肉食。サル等の樹上性哺乳類や大型の鳥類を捕食する。中でも最も好む獲物はヒヨケザル
ごく稀に家畜や家禽を襲う事もある。
*備考*
最も希少な猛禽類のひとつで、世界最強のワシとも呼ばれる。
短めの翼と長めの尾羽を持ち、
大型猛禽類としては珍しくあまり滑空せずに強い羽ばたきで森を旋回して獲物を探す。
その嘴は縦に分厚く横に薄く、その為立体視が効き、非常に視野が広い。
獰猛な性格で、飼育下でもヒトに向かってくる事が珍しくない。
剥製にしたり、生きたまま飼育する為に乱獲され続け、
更に住環境が劇的に乱開発された影響で、
現在の個体数は100〜150羽前後。絶滅寸前の危機にある。
古くミンダナオ島では、この鳥は魔法使いの化身とされ恐れられた。