バリケン
Muscovy Duck (Cairina moschata)

とある酒宴の席に参加した時の話。

談笑しつつ酒杯を交わしていた相手がふと真面目な表情になり、
私にこんな質問を投げかけた。

「なぁ、ニワトリとアヒルの混血って可能だと思うか?」

聞くところによるとこうである。
若い頃、友人と旅行でタイに出かけた時、とある農村で一泊したのだ、と言う。

「其処でさぁ…見ちゃったんだよ。明らかにニワトリとアヒルの混血っぽい鳥を。
 全体的にはアヒルなんだけど、顔のところにニワトリと同じトサカがあってさ、
 目つきも何となくニワトリに似てるんだよ。
 羽の色は…頭が白くて、胴体は黒っぽい緑色だったかな。
 脚と嘴はアヒルそっくりだったけど、陸の上を歩くのも結構上手だったよ」

後日、私は飼い鳥の詳細が掲載された図鑑を彼に見せ、その中からバリケンのページを示して、
「多分、貴方が見た鳥はこれでしょう」と聴いた。
果たせるかな、私の推測通りだった。彼はバリケンの写真を見るや、
「これこれ!」と強く頷いたものだ。

ニワトリとアヒルが交雑し子供を為すのは、例えて言うなら犬と猫を交雑させるようなもので、
到底不可能な事である。
最も、どの動物とどの動物が交雑可能か、なんて事はある程度の知識がないと
中々判り辛いモノだ。
バリケンに関連するこのエピソードは、それを痛感させる貴重な経験になった。
<データ>

*分類*
鳥綱 雁鴨目 ガンカモ科
*分布*
野生種は中米から南米、西インド諸島の海岸、河川流域。飼養種は世界各地。
*大きさ*
全長70cm前後、体重3.5〜4.1s
*食性*
植物食の頻度が高めの雑食性。
*備考*
元々はラテンアメリカ地域に広く分布する大型の水禽。樹上性で翼に小さな鉤爪を有し、巣は樹洞に作る。
ジャコウ様の臭気を持ち、英名はそれに由来する。
飼養が容易で粗悪な食餌でも早く肥育する事から、
アンデスの古代文明・インカの人々によって家禽化の試みが為されたらしい。
16世紀にスペイン人が南米に上陸した事を切欠にヨーロッパに広まり、
現在では良質な肉を多産する優良な家禽として世界各国で飼育されている。
ヨーロッパ経由で世界に広まった事から、日本では一名を「フランスガモ」とも言う。
飼養種では顔面の皮膚の裸出、及び羽毛の色に様々な変異がある。
熱帯の原産であるにも関わらず、寒冷な気候にも良く耐え、丈夫。
アヒルとの間には繁殖力の無い一代雑種が交雑可能で、中国ではこれを『土蕃(トーファン)』と呼び、
バリケンともども肉用に飼育している。