*死者を哀れむ異形の鳥*
「いつまでん」とも呼ばれる。鬼の顔、蛇の胴体、広げた双翼の幅が二丈(約5〜6m)もある巨大な怪鳥。
「以津真天(いつまで)」と言う奇妙な名前の由来については様々な説があるが、一説によるとこの鳥は非業の死を遂げた人々の怨霊が結集した姿であり、放置されて誰からも省みられない人の屍骸を見ると恨めしげに「いつまで、いつまで」と鳴くと言われ、それに由来した命名だとも言われている(これには「いったい、いつまで屍体を野ざらしにするつもりなんだ」と言う怨念が込められているのかも知れない)。時にはその屍骸を貪り食べるとも言われる。
又、飢饉や動乱に巻き込まれ、止むを得ず死にかけた仲間を見殺しにしたような人が、その罪悪感に心を痛めた時、その心の「隙間」に付け込んで現れ、責め苛むとも言う。死者の霊魂を鳥と結びつける考えは古今東西を問わず古くから伝えられており、それ故に恨みを飲んで死した者の霊魂が怪鳥にに生まれ変わり、生者に災いを齎すと言う背景も、またすんなりと日本人に受け入れられたのであろう。
因みに、古書『太平記』の「広有射怪鳥事」のくだりには、隠岐次郎左衛門広有(おきのじろうざえもん ひろあり)と言う武将が紫宸殿の上に夜な夜な出没する「いつまでも、いつまでも」と鳴いて人々を恐れさせた怪鳥を弓で射落とした事が記されているが、この怪鳥も「以津真天」であるとされる。