*闇夜に潜む切り裂き魔*
「網剪」(あみきり)は読んで字の如く、闇夜に紛れて蚊帳や魚網、洗濯物などの布製品をズタズタに切ってしまう…と言う悪戯者の妖怪である。両腕が鋏のようになっており、全体的な姿は甲殻類に似ていて、鳥の頭を持つ、と言うのが一般的なイメージだ。
最も、布を切ると言う属性はどうやら後世になって付加されたモノであり、元々は妖怪画の大家・鳥山石燕翁の創作妖怪であるらしい。一説には「網剪」の“網”は甲殻類の“醤蝦”(あみ、オキアミの事。佃煮などにして賞味する)にかけた洒落で、姿かたちが何処となく甲殻類を思わせるのも“醤蝦”からの連想なのだ、と言う。
どうして布を切りたがるのか、その理由は未だに明らかにされていないが、自らの鋏の切れ味を試す為だとも、切った布を食べてしまうのだと言う人もいる。また、「網剪」は物質的なモノだけではなく、目に見えない精神的なモノを切る力もあると言われており、「網剪」に夫婦仲を断ち切られて離縁してしまった夫婦の話もあるらしい。
但し、彼が切るのは飽くまで其処までであって、例えば「網剪」がその鋏で人を斬り殺した、と言う話はあまり聞かない。切り裂き魔とは言っても『愉快犯』の色合いが濃い妖怪と言えそうだ(夫婦仲を切るのは少々頂けないが)。