オニイトマキエイ
Giant Manta Ray (Manta birostris)
「アカエイの京」と言う伝説がある。
日本で見られるエイとしては大物の部類に入るアカエイ。
このアカエイの中には、背中に京(みやこ)が建造出来る程の大物がいて、
時折背中の砂を払いに海上へ浮かび上がる事があると言う。
堆く砂が積もり、海藻が蔓延ったアカエイの背中を、
通りかかった船舶が島と間違え、船をつけて休息しようものなら、
アカエイは背中の人間諸共海中に没し、姿を消してしまう。
このようにして、多くの命を奪うとされたアカエイ。
人々はそんなアカエイを、色仕掛けで君主を誑かし、
城を傾けて仕舞う程の美貌の持ち主の美女の伝説に因んで「傾城魚」(けいじょうぎょ)と呼んだ。
こんな風に、兎角日本では良いイメージを持たれなかったエイの仲間。
エイ達からすれば名誉毀損で訴えたいところではあるまいか。
日本でエイがあまり良く見られなかったのは、その姿かたちが珍奇な事と、
常に海底に這うようにして泳ぐ様が陰気なイメージで取られたからかも知れない。
そんな、陰気なエイのイメージを覆すのが、
此処に紹介するオニイトマキエイ。
海上を翼のような鰭をばたつかせて跳躍する威風堂々たる姿は、
「アカエイの京」の伝説に語られる陰気なエイのイメージとは程遠い。
江戸時代の人間がオニイトマキエイに逢ったなら、
「アカエイの京」の伝説も少しは異なるモノになっていたかも知れない。
<データ>
*分類*
軟骨魚綱 トビエイ目 イトマキエイ科
*分布*
海洋(熱帯域)
*大きさ*
体盤幅3〜6.7m、体重1〜2t
*食性*
濾過食。頭部先端にある鰭で海中のプランクトンを集めて口に運び、
海水ごと嚥下して鰓でプランクトンだけを濾しとって食べる。
*備考*
エイ類最大種。くすんだ黒褐色と白のツートンカラーの体色と、
耳のように発達した特殊な鰭(頭鰭…とうき)、翼のように迫り出した胸鰭が特徴。
頭鰭は採食時に餌のプランクトンを集める働きがあると共に、
遊泳時の舵取りの役割をも果たしていると見られる。
底性生活者が多いエイ類にあって、数少ない海の表層での生活者である。
異性に対するディスプレイの為、海面スレスレを巨体を躍らせてジャンプする習性があり、
この習性と独特の外観ゆえに、ダイバーの間でも人気の海洋生物のひとつ。
英語名及び学名の「マンタ」と言う名はスペイン語に由来する言葉で、
「毛皮のコート」や「オーバーコート」の意味。
頭鰭と黒っぽい外観から「Devil Fish」(悪魔魚)と呼ばれる事もある。