チョウザメ
Sturgeon (Acipenser medirostris)

世界三大珍味のひとつ「キャビア」の親であるチョウザメの事を、
中国では「皇帝魚」と呼ぶ。

「皇帝魚」について、中国にはこんな言い伝えがある。

不老長寿を貪欲に欲し、万民から搾取に次ぐ搾取を働く暴君がいた。
ある時、この暴君を滅ぼそうと、ひとりの老いた漁夫が城に参内し、こう言った。
「私の住む海には、食べると不死を得られると言う怪魚が住んでおります。
然し、真の君主がその目でしっかりと見ない事には、凡人には捕らえる事が出来ませぬ」

暴君の喜ぶまい事か、
早速その老漁夫に案内させて海へと竜車を走らせた。
そして、早くその魚を一目見ようと、崖から暴君が身を乗り出した刹那、
老漁夫は暴君の着物の襟を掴み、
諸共に海に身を躍らせてそれっきり戻らなかった。

以来、その海の付近に、不気味な姿をした魚が見られるようになった。
「きっとあの暴君が魚になったに違いない」と人々は恐れ、
その魚を「皇帝魚」と呼び、暴君の愚昧な為政を後世に伝えると共に、
勇敢な老漁夫を偲んだ、と言う。
<データ>

*分類*
硬骨魚綱 チョウザメ目 チョウザメ科
*分布*
北太平洋。川で産卵し、稚魚は川を下って海で成長する。
*大きさ*
全長2〜3.7m、体重300〜450kg
*食性*
肉食。貝類、甲殻類、環形動物など、底棲の小動物が主食。
尖った吻の先にある髭状の感覚器官で探り当て、吸い込むようにして捕食する。
*備考*
サメと名がつくが軟骨魚類とは無縁。現生の硬骨魚類では最も原始的なモノのひとつ。
「ガノイン鱗」と呼ばれる鱗が背中、側面にのみ生えており、非常に硬い皮膚を持つ。
その鱗がチョウの羽に似た形である為「蝶鮫」と名付けられた。
河口付近の海底に近い地域に単独で棲息し、産卵の時にだけ川を遡上する性質を持つ。
成長が遅く、繁殖可能な年齢になるまでに10〜20年近くかかり、寿命は推定100年以上。
非常に粒の細かい、ねっとりとした黒緑色の卵を生む。一回の産卵は数万〜100万粒以上と推定される。
この卵を産卵前に取り出し、塩蔵したモノが「キャビア」。
肉は脂肪が極めて多く臭味があるものの、然るべき処置を施して食用に呈すると極めて美味。
卵と魚肉を狙った漁業の対象とされており、個体数は極めて少ない。
これに極めて近い種が幾つか、キャビア採取の目的で最近養殖されている。