ゴマフアザラシ
Harbar Seal (Phoca viturina)

アザラシは、見る者に訴えかけるような愛らしい顔付きからか、
世界各地に、叡智のある海の精霊として語り伝えられている事例が存在する。

これはイギリスに伝わる昔話。

アザラシを捕る事を生業にしている猟師がいた。
ある時、大きなアザラシ目掛けて投げナイフを飛ばしたところ、
手ごたえはあった物の獲物を仕留めるには至らなかった様子、
背にナイフを差したままアザラシは海に潜って消えてしまった。

その夜、猟師を尋ねる者があった。
見かけないひとりの男だった。
「父が怪我をした。医者も無く治療に手間取っている。
すまないが貴方も手を貸してはくれまいか」と。
疑いもせずに猟師がその男について行くと、何処をどう通ったのかも判らぬまま、
猟師は洞窟の奥に案内された。
其処には背に傷を負ったひとりの老人が横たわっていた。
猟師は驚いた。何故なら老人の背に突き刺さっていたのは、
紛れも無く自分の投げナイフだったからだ。

男は言った。
「自らの行いを悔い、傷口をナイフで円を書くようになぞって下さい。
そうしないと父の傷は癒える事がないのです」
猟師がその通りにすると、老人の傷は忽ち良くなった。

猟師は今までの行いを悔い、これからは決してアザラシを捕らないと誓った。
男…アザラシの精霊はそれを聞くと、「今後の暮らしの足しに」と、多くの財宝を猟師に与えたと言う。
猟師が網を捨てたのは言うまでもない。
<データ>

*分類*
哺乳綱 食肉目 アザラシ科
*分布*
北半球の海岸
*大きさ*
全長1.4〜1.9m、尾長8〜10cm、体重55〜170kg
*食性*
魚食性。種類は問わず、どんな魚も好んで食べる。
タコやイカなどの頭足類も好物。
*備考*
アシカに近縁の海の哺乳類。
港や入り江等の波の穏やかな海域を好んで住処にし、英語名はその習性に因む。
銀色がかった褐色に、黒いゴマ粒のような駁文様が特徴。
繁殖期には小さな群れで、それ以外の時期は単独で生活する。
他の鰭脚類よりも水中生活に高度に適応しており、
足の関節の自由度が他の鰭脚類より低く、陸上では這うようにしか移動できないが、
海中では流線型の体つきを活かし、後ろ足で舵を取りながら非常に巧みに泳ぐ。
生まれたばかりの子供は純白の綿毛に全身を包まれていて、非常に愛くるしい姿をしている。
北方の先住民族は毛皮と肉を利用する為に、この動物を狩る。
また、魚を食べる習性から漁業関係者には目の仇にされ、
その為に各地で過剰に殺されており、個体数が減っている。