オグロヅル
Black-necked crane (Grus nigricollis)

タンチョウヅルの絵を描きなさい、と言われると、
大抵の人が尾羽を黒く塗る、と動物園関係者の方に聞いた。

タンチョウヅルの尾羽は白く短い。
だが、翼の羽の一部…正確に言うと「次列風切羽」の内、黒い部分が長く伸び、
翼を閉じていると恰も尾羽のように見えるので、
大抵の人はその部分が尾羽だと思ってしまうようだ。
私も子供の頃はそう思っていた。

しかし、世の中には例外と言う奴が時折存在するモノで、
風切羽の他に尾羽も黒いツルがチベットや中国の奥地に住んでいる。
その名をオグロヅルと言う。

見かけはタンチョウヅルを小さくしてやや灰色っぽくした感じで、
目つきが他のツルに比べて鋭く、嘴の付け根に黒い羽が生えているので、
何となく男性的な顔つきである。

ツルの類には個体数が激減している種類が殊の外多いが、
このツルも御多分に漏れず、その個体数は僅少だと言う。
原因は良く判らないが、開発や密猟の影響も少なからずあるのだろう。

最も、彼等の原産国であるチベットの人々は、彼等を神の鳥と崇め、
殺したり迫害したりせず、むしろ積極的に保護している。

現在、彼等は野生下で5000〜6000羽、その他に相当数が飼育下で存命中との事。
保護活動の成果と言えるだろう。
滅びつつある他のツル類にとって、彼等の保護政策は
ある種の「礎」になるに違いない。
<データ>

*分類*
鳥綱 鶴水鶏目 ツル科
*分布*
チベット高原及び北部インド、ブータンの高山地帯
*大きさ*
全長1.15〜1.4m、翼開長1.8〜2m、体重5〜7kg
*食性*
雑食性。雑穀、水生植物、昆虫などの小動物が主食。
地域によっては冬に収穫後の落ち穂を餌に利用する事もある。
*備考*
高山地帯の気候に適応した唯一のツル類。その暮らし振りは今もって判らない事が多い。
夏季は標高3900〜4200mの、高原の中でも温暖な地域に分散して繁殖し、
冬季になるとチベット高原の中南部に位置する沼沢地や農耕地に集まって越冬する。
チベットでは彼等を、特徴的なその鳴き声から「チョンゾン」と呼び、
神鳥として敬い、歌や踊りに取り入れて語り継いできた。
中国及びチベットの第一級保護動物のひとつで、国際的な保護鳥でもある。