ピラルクー
Pirarucu (Arapaima gigas)
静岡県・浜松に在住していた頃の事だ。
浜松はブラジルからやって来た移住者が結構多いらしく、
街の各所にブラジル料理屋さんとか、専門の食材店とかがある。
ある日、そのうちの1件に昼食を摂りに出向いた時、
店の片隅に奇妙な物体があるのに気が付いた。
帰り際に店の主人に聞いてみた所、
「ピラルクーの鱗だ」と言う返事が帰ってきた。
間近まで接近して見てみたが、親指と人差し指で輪を描いたくらいの大きさがある。
伝説に聞く「龍の鱗」を髣髴とさせる形をしていた。
かの地では、ピラルクーを捕獲、肉を食用にすると言う。
全長2mを下らない巨大な魚なので、一匹から取れる肉の量も半端じゃないらしい。
で…その際に大量に出る鱗を、乾かして装飾品の材料にしたり、
靴べらに加工したりするのだそうだ。
靴べらになるほど大きな鱗…。
そんな鱗を持つほどの巨大な魚を、数多養う南米有数の大河・アマゾン。
改めてかの大河のキャパシティの広さと言うか、懐の深さを噛み締めた次第である。
<データ>
*分類*
硬骨魚綱 オステオグロスム目 アロワナ科
*分布*
南米アマゾン川とその支流
*大きさ*
全長1.5〜3m、体重75〜200s
*食性*
捕食性の強い雑食。口に入る大きさの水棲動物ならば何でも食べる。
飼育下では魚の切り身やエビ養殖用の練り餌も食べ、それ程食に対する選り好みはしないらしい。
*備考*
鱗を持った淡水魚では恐らく世界最大。公式な最大記録は全長4.5〜5mにもにも及ぶと言われるが、
乱獲が祟り、其処まで大きな個体は滅多な事では見られなくなってしまった。
浮き袋の一部が発達して擬似的な「肺」を形成しており、
鰓呼吸だけではなく空気呼吸も行う事が出来る。空気呼吸の際の豪快な破裂音はかなりの遠距離まで響く。
名は現地語で「赤い魚」の意味(正確には淡水魚を意味する「ピラ」と「ウルクー」と呼ばれる赤い色を呈す植物の名に由来)。
その名の通り、縁が真っ赤に染まった硬く薄い鱗を持っている。
舌骨にやすり状の突起物を持ち、獲物は勢い良く吸い込み、舌で口腔に押しつけてすり潰して嚥下する。
(因みに目“もく”の名称オステオグロスムOsteoglossumとはギリシア語で『骨質の舌』の意)
河川の汚染、及び過剰な狩猟により個体数は減少の一途を辿っており、
ワシントン条約で厳しく保護されている。ブラジルでは近年、この魚の養殖に関する研究も始まった。
一夫一婦制で、川底の砂地に産みつけた卵を夫婦で保護し、稚魚が一人前になるまで「保育」する事でも有名。